やしお

ふつうの会社員の日記です。

馬部隆弘『椿井文書』

https://bookmeter.com/reviews/96505847
江戸末期に椿井政隆によって近畿で大量に製作された偽文書が、「本物」として受け入れられる過程を描く。変なマナー(江戸しぐさとか)が昔からあるものとして定着してしまうのにも似ている。椿井政隆は、権利(支配権・漁業権・身分上昇など)の争いに対して一方に有利な歴史を書くことでお金を得ていただけでなく、趣味として歴史書の隙間を埋めたり独自解釈を施した偽文書も作ってたという。今でいう「架空の鉄道や町をリアルに描く趣味」にちょっと近いのかもしれない。それを明治期に子孫が質に流したことで、流出の第二段を引き起こしている。

 公式の地域史に一度組み込まれてしまうと、もうなかなか引き剥がせなくなってくる。純粋な史学の問題じゃなく、地域のアイデンティティや政治的な問題にまでなってしまう。
 歴史学者にとって、限りある研究者としての時間を、偽文書をテーマに定めて割くのは難しい。それなのに、(もともと本人も望んでいないのに)どうして著者が椿井文書を体系的に調査・研究するに至るか、というきっかけの話もとても面白かった。

金成玟『K-POP』

https://bookmeter.com/reviews/96431429
素質の良い者を選抜し、歌・ダンス・作詞作曲・語学など極めて厳しいトレーニングを課し、チームを組んで実戦投入する。軍の特殊部隊に近い。世界最高水準に到達する人が「運良く」出現するのを待つのではなく、コンスタントに育てようとすれば、似た方法になるのかもしれない。金敬哲『韓国 行き過ぎた資本主義』で、新自由主義経済が教育熱の過剰な高まりを招く景色を描いていたが、厳しい訓練を許容する風土は、そうした面ともリンクしているのだろうか。アメリカと日本の後発として、両者から吸収しつつアップデートしていく流れがよくわかる。

K-POP 新感覚のメディア (岩波新書)

K-POP 新感覚のメディア (岩波新書)

  • 作者:金 成玟
  • 発売日: 2018/07/21
  • メディア: 新書

森功『同和と銀行』

https://bookmeter.com/reviews/96405124
闇市で喧嘩に明け暮れてヤクザになり、さらに同和団体トップとして君臨した男と、貧しい漁村に生まれ唯一スーツ姿を見た銀行員に憧れ、高卒で都市銀行に入り支店長にまで出世した男が、ある種の信頼関係で結ばれて大金を動かしていく。ちょっとエモいと言えるかもしれない。一方的に反社勢力が銀行や行政を喰いものにしている、といった単純な話ではなく、お互い利用し合う関係になっている。同和団体支部長 小西邦彦は、ちょうどその間のクッション材として利害調整で機能し、三和銀行の行員 岡野義市は銀行と小西のパイプ役として機能していく。


 読みながら「ドン」という役割ってこういう感じなのねと思って、↓を書いた。
  「ドン」がネットワークのくびれで機能する - やしお