やしお

ふつうの会社員の日記です。

平野久美子『テレサ・テンが見た夢』

https://bookmeter.com/reviews/99999811
テレサ・テンは、母親経由で大好きになった。単に「歌謡曲の歌手」ではなく、その生涯は台湾・華人社会の歴史と強くリンクしている。父親は共産党に敗れ台湾に渡った国民党の軍人で、貧困の中で育つ。偽造旅券事件も個人の問題ではなく、台湾(中華民国)が国連から脱退し、国際的に孤立していたことが背景にある。高等教育を受けず、大人になって複雑な現実に直面しても、考える枠組みを持てずに大きな苦悩を抱えるスターの悲しさも描かれている。未だにベストアルバムが毎年出続けていて、現在185thアルバムまで出ているのだから驚異的。

磯田道史『近世大名家臣団の社会構造』

https://bookmeter.com/reviews/99999790
武士と一口に言っても、内部は侍・徒士足軽の3層構造になっていて、各層の経済構造や世代交代・階層移動の様子は大きく異なっていたという。それも江戸時代の初期か後期かでも変化がある。一つの家・人物など個別具体例ではなく、地域も超えた一般構造を見せる本は珍しくてとても面白かった。地位と収入が保証された侍、地位は低いが農業収入のある足軽に比べて、副収入も乏しく経済的に困窮した徒士が、幕末期に変革の中心的存在になった、という指摘が面白かった。


 ただの控え、記録みたいなものが、後々貴重なデータとして統計的な解析に使われている。今だと物理的な紙にも残さないし、電子データが失われていくと、後世の解析でどうなるんだろうか。個人的に詳細な家計簿をずっとつけているけど、これなんかもおじいさんになったらネットで公開するとかしてもいいのかもしれない。
 もとが博士論文なので仕方がないというか、過ぎた要求だけど、内容に繰り返しや言い換えが多くて非常に冗長で、データ量を減らさず3分の2に圧縮できるはずなところが、読んでいてちょっと面倒だった。

半沢隆実『銃に恋して 武装するアメリカ市民』

https://bookmeter.com/reviews/99194576
アメリカの銃規制反対派の言い分を紹介する本。そういうロジックになっているのかと面白かった。「国家権力に一定の縛りをかけて市民社会を守る」が民主主義のベーシックな考え方だという理解はあったけど、それが「市民が銃を持つことで国家権力に対抗できる」という考えから、「銃規制に反対することが民主主義を守ること」となっている。荒唐無稽なようにも聞こえるけれど、歴史的な経緯などを丁寧に見ていくと、その論理がリアリティを持っていることが分かる。銃社会がもたらす現実が、その論理のリアリティをさらに補強する。