やしお

ふつうの会社員の日記です。

篠田英朗『紛争解決ってなんだろう』

https://bookmeter.com/reviews/105393705
少し前に、ウクライナ侵攻に関してTwitter上で、著者の篠田英明氏を「現実の戦地・政治をリアルに感じ取ることのできない学者」と誹謗した橋下元府知事が、「この人は現場経験あり過ぎるだろ」と総ツッコミを受けていた。この人の本を何か読もうと思って最も近著である本書を買った。「複数のレイヤーで原因は存在する」は例えば、プーチン個人が悪い、プーチン独裁を許したロシア国内の体制が悪い、侵攻を止められなかった国際社会が悪い、のいずれも矛盾なく同時に成立するし、同時に見ないといけない、という話になっている。


「初学者向けの教科書」という位置付けで、とてもコンパクトに全体像が分かる。概念や名前を知ると「ああ、あの現象ってそういう類型化されるのね」と分かって自分の中で定着されて嬉しい。著者の実体験や具体例・実例がメインの本を今度は読んでみたい。

諏訪恭一『品質がわかるジュエリーの見方』

https://bookmeter.com/reviews/105122040
本書1冊で基礎知識と価値基準が共有されて、ジュエリーを見る解像度が上がる。写真も豊富で美しい。バランスや適材適所かをトータルで判断するもので、例えばダイヤの4Cに拘泥してマニア的に執着したり、ブランドのランクで見下すような姿勢とはかけ離れている。宝石・構想・仕立ての3要素で見るのは、工業製品が企画・設計・製造の各品質どれが欠けてもダメなのと似ている。本書はたまたま本屋で見かけて、上野の科博で宝石の特別展もやるし、観に行く前に前提知識があるといいかと思って買ったら、著者がその展示の監修者だと後から知った。


 様々な宝飾品をエクセレント~プアの5段階に分類して個別に解説するが、プアも貶すのではなく欠点・不調和を指摘する姿勢で納得感が高い。
 著者の経歴もすごいが、著者の祖父と父が戦時中に国が国民から宝飾品を召し上げた時に、ダイヤの鑑定員として雇われた、というエピソードもすごい(本書では全く触れられていないが)。あと諏訪恭一が会長を務めるSUWAのジュエリーを先日実際に目にする機会があったけど、確かに美しかった。

小川洋子『猫を抱いて象と泳ぐ』

https://bookmeter.com/reviews/105121993
小川洋子は10代の時にハマって全作品を読んでいたのが急に離れて、17年ぶりに読んだのが本作だった。相変わらず見事な手腕だった。「誰も見向きもしないささいなことにこだわってしまう人物」「肉体のいびつな変化」「無垢な少年を穏やかに導く老人」といったモチーフは以前から一貫していて、それらをいくつも重ねあげて物語に仕立てていく。部分においても細かく対比・反転を入れて(例えば少年の家の狭さや古さと家具の美しさなど)飽きさせないし、お互いに節度のある距離感を保つ作中人物たちの態度も気持ちがいい。