やしお

ふつうの会社員の日記です。

宮内悠介『偶然の聖地』

https://bookmeter.com/reviews/107192414
なんかおもちゃ箱を見せられたような気分で楽しかった。自分の好きなものやことをわっと詰め込んで、要素も流れもそれほどガチガチに固めずにぱっと提示していく。連載前の依頼内容は「エッセイと小説の中間のようなもの」だという。結果的には小説に違いないとしても、著者自身による大量の注が入ることで、作者の実体験や考えが直接書かれて、「エッセイと小説の半々」が実現されている。

田崎史郎『小泉進次郎と福田達夫』

https://bookmeter.com/reviews/107192385
小泉議員は最近「小泉構文」と揶揄されたり「こいつは馬鹿にしてOK」みたいな風潮もあるが、もともと議員になる時に「世襲議員」としてものすごい叩かれ方をした後に、ものすごい人気が出たという上がり下がりを見ているので、また風向きが変われば「世間の評価」なんかすぐ変わるんだろうなと思っている。本書を見ても小泉・福田両氏も相当の勉強家で優秀、「世襲」に対する客観視もできてる。ただその上で、やっぱり世襲化は抑制するような制約が必要だという気持ちがより強くなる。


 本書は自民党の農政部会で小泉氏が部会長、福田氏が部会長代理を務めた時期の両氏へのインタビューなので、「元首相を父親に持つ世襲議員の話」だけでなく「農政に関する与党・政府・業界の動き方」を知るにも面白い本だった。


 世襲議員は「地盤・看板・鞄」を最初から手に入れているから強い、とはよく言われて実際そうだけど、本書を読むと「世襲議員になるかどうか」や「世襲議員になった後で党内で出世するかどうか」はまた別の要素なんだなと思った。スポーツ選手の子供がそのスポーツの選手になるのと近い話だと感じた。
 小泉・福田両氏とも父親から「継げ」とは言われていないという。小泉氏は父(純一郎)からは「継ぐな」とさえ言われていたという。それでも子供の頃から身近で仕事ぶりを見ていると、自分なりに「こう働けばいいんだ」というイメージができる。「政治家になる/働く」のイメージを具体的に知っているかどうかは、「それになろう」と思うかどうかに大きく影響する。それは政治家に限らず、スポーツ選手でも何でも「親/身近な大人がやってること」を見るかどうか、やろうと思った時に環境にアクセスしやすいかどうかは大きい。
 あと特に小泉氏は、自分の父親の周辺に集まる人々やメディアによる扱われ方を見てきた結果として、「冷めている」というか、振舞い方を心得ているのは大きいのだろうと思った。
 本書の中に、他の議員・官僚へのインタビューも掲載されており、そのうちの一人(国会議員)が「当選するには毎週末地元に戻って地域のイベントに参加し続けなければ当選できないが、世襲議員はそうした地盤固めの必要がなく、その時間を自分の勉強に充てられるので強い」と語っていて、「世襲議員は勉強熱心な人もいる」というか、「世襲でない国会議員は勉強したくてもしにくい」という面もあるんだなと思った。
 「親が国会議員だと子供も国会議員になりやすい」構造は、国民にとって幸せか? というと微妙だろうとは感じていて、世襲議員の率が低い国はどうなっているかというと、「直接禁止したり制約してなくても、世襲が特別有利にはならない構造やルールなので、率が低くなる」という。

柴田伊冊『航空のゆくえ』

https://bookmeter.com/reviews/107192353
「空の自由」「以遠権」といった概念を知られただけでも有益だった。コードシェア便があるとか、LCCが利用できるとか、探せば安い航空券もあるとか、どの国の空港でも搭乗手続きや航空券のデザインが同じとか、そうした便利さも「当たり前のこと」と気にしていなかったけれど、自分の子供の頃や親の世代は「飛行機に乗るのは特別な/かなりお金のかかること」だったと思うと全然当たり前じゃない。各国・地域・航空会社の思惑や事情が絡み合って、ルールが形成・整備されていった歴史を本書は概覧して、今ある便利さの背景を教えてくれる。