やしお

ふつうの会社員の日記です。

赤瀬浩『長崎丸山遊郭』

https://bookmeter.com/reviews/113340753 遊郭のイメージが変わる。交易地という長崎の特殊性が、「海外⇔上方間で流通する富を長崎に回収する装置」としての遊郭を生じさせる。丸山の遊女は他地域の遊女と異なり、「親に売られ、閉鎖空間に閉じ込められて性…

井上智洋『MMT 現代貨幣理論とは何か』

https://bookmeter.com/reviews/113340722 マクロ経済学者がMMTの位置付けをフラットかつ平易に解説する。「財政規律を無視できる(自国通貨があり過度なインフレになければ)」結論の妥当性には納得できる一方で、EUの構成国について「ユーロから離脱すべき…

柳澤健『完本 1976年のアントニオ猪木』

https://bookmeter.com/reviews/113340706 「自分は偉大である」と信じ込むこと。そして「偉大な自分」の幻想に、現実の自分を合わせようとすること。それをできるのは大きな才能だろうと思う。「天才」と呼ばれ得る人は、心底その対象への興味が尽きず没頭…

日本経済新聞社編『金融入門<第3版>』

https://bookmeter.com/reviews/112037668 金融にかかわる仕組みや組織を、官民問わず幅広くコンパクトにフラットに解説していて便利な一冊。事実関係を曖昧に記憶していた事柄(そういえば量的緩和策は最初は小泉内閣の時期で、その後アベノミクス前までは…

桂歌丸『歌丸不死鳥ひとり語り』

https://bookmeter.com/reviews/112037716 古典落語を演じるのは、単なるコピーではなく、噺を分解し、コアを取出し、現代の観客や自分自身の特性などの条件を基に、そのコアが最高の効果を発揮できるように再構築していく営みになっている。歌丸は、当初は…

三木義一『日本の税金 第3版』

https://bookmeter.com/reviews/112037634 改めて日本の税制を概観しても「取れるところから取る」「あえて複雑にして分かりづらくする」姿勢が至る所に見えてくる。「低所得者が増税を、高所得者が減税を主張する」姿が正常でも、逆進性が強く低所得者の負…

中谷巌『マクロ経済学入門 第2版』

https://bookmeter.com/reviews/112037553 本当に「〇〇学入門」の名にふさわしい書物で感動する。世の中には著者が好き勝手に放言するだけで「学」の名に値しない本や、理論体系の全体像や前提の意味、適用可能域の示し方が不十分で「入門」になり得ていな…

藤井聡『超入門MMT』

https://bookmeter.com/reviews/112037502 MMT(現代貨幣理論)がどういう理論なのか肝心の説明がされない。様々な主張が「MMTによると」と説明されるが、マネタリーベース拡大は貨幣数量説・リフレ派の、財政拡大は財政原則(量出制入)の旧来の主張の域を…

神野直彦『財政のしくみがわかる本』

https://bookmeter.com/reviews/112037319 財政の基本的な考え方である「民間は量入制出(収入量に応じて支出を制御)だが、財政は量出制入(支出の必要量から収入を制御)で考える」「ニーズは財政に、ウォンツは市場に任せる」「直間比率(間接税に対する…

井手英策『財政から読みとく日本社会』

https://bookmeter.com/reviews/112037287 日本が他の先進国と比較しても、極端に公務員の数が少ない「小さな国家」だとは知っていたが、どういう経緯でそういう社会になっていったのかは、本書で知って非常に面白かった。予算を、内容ではなく総額の抑制を…

瀬山士郎『数学にとって証明とはなにか』

https://bookmeter.com/reviews/113340674 トートロジーは(最近だと進次郎構文とか)無意味な同語反復のように思われても、実は万人が「正しい」と感じる命題はトートロジーに(一見してそう見えなくても)なるという認識があれば、厳密に形式的にそうでな…

お金を払ってコンテンツを消費すること

このエントリは、『はてなブログ×codoc連携サービスのプロモーションのため、はてなからの依頼を受けて投稿しています』。 はてなブログで「ここから有料」やサブスクの機能が利用可能になるとのこと。依頼を受けておきながら、記事有料化にあまりピンときて…

ゼルダとジムとやりがい搾取

ここ最近、テレビゲーム「ゼルダの伝説」の新作「ティアーズ オブ ザ キングダム」(TotK)をずっと遊んでいる。本当に楽しい。前作「ブレス オブ ザ ワイルド」(BotW)も本当に楽しくて、ずっと新作を心待ちにしていた。これだけ大勢の人から大きな期待を…

CoCo壱番屋と共に生きる

カレーハウスCoCo壱番屋(以下ココイチ)は、定期的に「美味しくない割に高い」と話題になる。そのたびに哀しい。ほとんど腹を立てているくらいの気持ちになっている。ココイチに対して私は冷静な評価はできない。 そうした気持ちがどこから来るのかを一度整…

陰謀論への免疫力を高める

陰謀論に感染すると本人も周りも苦しい。免疫力を高める体質づくりには、以下のような習慣が必要だと思っている。 「相手が愚かだから」で解釈しない 「自分は全体を見えている」と信じない 義憤ではなく好奇心で見る 自分に一貫性を課し過ぎない 標準理論を…

平家物語の建付け・構造

今年の2月に兵藤裕己『平家物語 <語り>のテクスト』を読んですごく面白かった。平家物語のバリエーションの違いや生成される過程も考えて、平家物語がどういうテクスト・構造になっているのかを見ていく営みになっている。 その頃はアニメの『平家物語』も…

手柄よこどり人の作法

会社ではありがたいことに、自分より他人の功績を強調するタイプの人が多いが、真逆の人もたまにいる。 テレビドラマなどに登場する「手柄を横取りするキャラ」は、「本人が意識してやっている」「上昇志向が強いので人を蹴落とそうとする」という描かれ方が…

羽根田治『山岳遭難の教訓』

https://bookmeter.com/reviews/110423187 自分自身は山登りを一切しないが、ネットで遭難の記事を見かけると何となく読んでしまう。8日間さまよって自力で下山した64歳の事例を見ると、角幡唯介『空白の五マイル』(チベットの未踏の峡谷を探検するルポ)を…

小泉悠『現代ロシアの軍事戦略』

https://bookmeter.com/reviews/110839420 ロシアのクリミア侵略は「認知空間・サイバー空間での攻撃がすごい」と言われがちだけど、結局は旧来の軍事力がメインで、サブ的な要素に過ぎない、といった指摘をされると、たまたま直前に全然関係ない谷川浩司『…

谷川浩司『藤井聡太論』

https://bookmeter.com/reviews/110839405 普段は将棋の真理を追求する研究者、対局の序中盤は将棋の新しい世界を築く芸術家、終盤は勝利を求める勝負師、と3つの顔を棋士は持つべきという話は、意味の解釈/新たな解釈の実践/技術の追求のような、文芸なら…

山本紀夫『トウガラシの世界史』

https://bookmeter.com/reviews/109889732 こうして見ると、日本の「激辛ブーム」は、今生きてる人間からは単に「ブーム」に見えても、歴史全体で俯瞰するとトウガラシの受容プロセスの一環、不可逆的な浸透の過程になるのかなと思った。コロンブスが南米か…

すが秀実『1968年』

https://bookmeter.com/reviews/109889755 中核派を始めとする新左翼は、ベースの価値観がナショナリズムとナルシシズムで成り立ってた、という話はすごく腑に落ちるというか、現在の自称保守派と似てる。それを真正面から面前で批判したのが、1970年7月7日…

山田登世子『シャネル』

https://bookmeter.com/reviews/109889609 本書の解説では「ココ・シャネルの様々な特質は『嫌悪』の精神に集約される、本書はそれを証明している点で傑作」と書かれてはいるけど、本文を読むとむしろ、経済構造の転換期で、世の中のライフスタイルや価値観…

中村恵二、榎木由紀子『最新ホテル業界の動向とカラクリがよ~くわかる本[第4版]』

https://bookmeter.com/reviews/109889565 コロナで旅行の機会が減ってから、なんとなくYouTubeで旅行やホテル滞在の動画を見るようになって、もうちょっと体系的にホテルの基礎知識を得たいという気持ちになってきて、あれこれ探して本書に行き着いた。業界…

奥田英朗『イン・ザ・プール』

https://bookmeter.com/reviews/109889517 刊行直後に16歳の時に買ってゲラゲラ笑って読んだ小説で、思い出深い。20年後に36歳の自分がもう一度読んだらどう感じるかなと思って買って読み直した。ゲラゲラ笑いはしなかったし、「当時はこのレベルのジェンダ…

荻上チキ『いじめを生む教室』

https://bookmeter.com/reviews/110839300 センセーショナルないじめ死亡事件が起こると、ワイドショーで「学校から逃げろ」と言われるが、現実のデータを見れば、言われるまでもなく学校から逃げて身を守っている生徒が現に大勢いて、教育機会から阻害され…

黒田草臣『終の器選び』

https://bookmeter.com/reviews/110423158 著者の両親が北大路魯山人の家の2階に住んでいた時期があり、その後も父親の遣いで魯山人のところへ通ったという。本書は陶磁器全般に関する解説書だが、魯山人がどういう人物で、やきものの世界に与えた影響も知ら…

鈴木哲也『セゾン 堤清二が見た未来』

https://bookmeter.com/reviews/110423133 児玉博『堤清二 罪と業』で清二の生涯や家族などの話はわかったので、もう少し具体的にセゾングループを構成していた各企業(西武百貨店・西友・無印・LOFT・ファミマ・パルコ・リブロ・インターコンチネンタルホテ…

松尾弌之『大統領の英語』

https://bookmeter.com/reviews/110423089 単に大統領のスピーチの紹介だけでなく、その大統領が登場した文脈やキャラクターと、使用される英語の特徴とを結びつけて解説されるので面白かった。Mr. Presidentという呼びかけが、大統領の呼び方が議論された際…

吉川景都・BAパンダ『メイクがなんとなく変なので友達の美容部員にコツを全部聞いてみた』

https://bookmeter.com/reviews/109889247 BAと漫画家の対話で進む漫画パート、「眉毛の描き方変えるといいよ」「眉毛!?」とか「眼球と骨のこと考えるといいよ」「眼球と骨!?」とか、「キーワードを単に絶叫するリアクション」が頻出するのに一度気付いてし…