やしお

ふつうの会社員の日記です。

フォークナー『アブサロム、アブサロム!(上)』

http://book.akahoshitakuya.com/cmt/11956050

複数の人の口から物語を語らせるスタイルは、神を措定して透明に語るよりずっと倫理的かもしれない。括弧やイタリックで人の口や思考だと明示しながら、明示が意味を失うほど過剰な長さで繰り返される物語に「余りにも多く、余りにも長く、聞きすぎて来た」(p.322)と聞き手・クェンティンが叫び、自分で物語の空白を埋め始めるのはほとんど私たち読者のよう。探偵小説なら自ら動いて客観的に空白を生められても、ここでそんな振る舞いは彼に許されない。物語の、というより物語の語り方の決着が下巻でどうつけられるのかとても楽しみ。