やしお

ふつうの会社員の日記です。

足の踏み場もないほどメガネ

 そうなんだ。もう2週間も前にメガネを新調して、それを僕は黙っていたんだ。



 就職して4年のうちにこれで4本目だ。いくらあっても足りないくらいだよ。
 こんな話を聞いたんだ。それは阪神地震の被災者の話だそうだ。困ったのはメガネがないことだったらしい。たしかに朝方に起きたから、メガネもコンタクトもつける余裕もなしに逃げた人が多かったのかもしれない。その人は普段とは別の場所、たとえば玄関先にも予備のメガネを置いておくことをおすすめしていたね。
 メガネをいくら持っていても地震をとめることはできない。(メガネにそういう機能はない。期待し過ぎだ。)でも、備えておくことはできる。僕は最善を尽くしたいんだ。


 それからこんな情景を思い浮かべるんだ。時代劇なんかで、地面に大量の刀を差してあったりすることがあるね。敵をどんどん切るうち鈍った刀を捨て、地面に差してあった刀を抜いてまた敵を斬りつづける。そしてまた刀を捨て、地面の新しい刀をつかみ、斬る。
 そういう要領で、僕は自室にいっぱいメガネを差しておく。そして敵が襲ってきたときに備える。(敵っていうのはランドルト環のことだ。視力検査で出てくる大小の「C」だね。ゴンスケが手につけているやつだ。)
 何百、何千の敵がやってくる。僕は「右!」「下!」「み……上!!」とどんどん倒していく。途中でメガネがだめになったらそれを捨て、差してあった別のメガネをすばやく装着してまた次々と殺る。
 それでもきっと僕は、ついにメガネが尽き、押し寄せる何万、何億のランドルト環に埋もれて死ぬ。(僕の視力は0.03ほどしかないから、最大ランドルトの0.1すらメガネなしでは倒せない。哀しいくらい弱い存在なんだ。)
 負けると知っている。でも、僕は最善を尽くしたいんだ。