やしお

ふつうの会社員の日記です。

神奈川新聞花火大会

 少しずつ空を上がってゆくのを見つめながら、あー来る来る来ると心の底で待ちわびていたところへ、ふっとその姿を消し、一瞬の間のあと突然大きく開いて私たちの期待と緊張を一挙に弛緩させるに及び、私たちはただ溜息をつくしかない。この目の前の空中に、普段は絶対に存在し得ないものが巨大に、目の前に確かに存在し、視界を圧倒してゆっくりとその径を広げてゆく様は、私たちの思考を暴力的に奪って、一切の武装を解除させる。私たちはただあえぐようにようやく溜息をつけるだけなのだ。
 たった一つの花火でそんな有様だというのに、間をおかず何発も何発も繰り返し放たれ、呼吸もままならぬ中で、ついには空一面がゆっくり崩壊する光に覆われてしまう事態に至ると、その場の人々は溜息すらつけず、
「イエ゛ア゛ァァア゛ーッ」
と奇声を発するだけなのだ。
 たまやー? かぎやー? そんな余裕などあり得ない。
「イエ゛ア゛ァァア゛ーッ」
という叫びが響き渡る。


 花火というものが、そういった理解を踏みにじられ思考を奪われるという、途方もなく心地よい体験なのだということを、今夜は久しぶりに実感させられたのだった。