やしお

ふつうの会社員の日記です。

ひっかかりがないからなめらかさ

 ツタヤで間違ってCDをケースのケースごとレジに持っていってしまって、店員から次回からはケースのケースから抜き取って中身(CDとケース)のみお持ちくださいと注意された。間違える人が多いのか、注意のフレーズが口に馴染んでいるらしく店員はものすごくなめらかに一息で言った。
 あまりになめらかすぎて聞き過ごしちゃって、あとから音声を音声のまま頭の中で再生し直して意味を捉えなおすという作業をしてようやく、あ、いま注意されたんだと気づいた次第。


 もっとおれが気さくな人なら
「あ、ごめんね今聞いてなかった。もう一回いって」
と言えたかもしれないし、それかもっと、
「私の猿。もう一度言い直しなさい」(店員がちょっと猿っぽい顔だったので)
「あはぁ、あはぁ」
「はしたなく涎を垂らしていないで、きちんと言うんだ。私の猿。」
「あうーっ!」
ってなるかっていうとならない。ツタヤは公共の場だから。
 でも考えてみてよ。
 いきなり初対面の紳士に「私の猿」呼ばわりされたらふつう、バイトの青年って頭の中まっ白になってもう何もかんがえられなくなるよ? よだれ垂らして口をぱくぱくさせるだけでしょう……


 そういうことを言いたいわけじゃない。
 あんまりなめらかに言われると意識にひっかからないという話で、例えばプレゼンなんかでも事前によく練習したんだなっていうなめらかな話し方だと、よっぽど集中してないと頭にまるで入ってこないの。冗長さで摩擦を生んでひっかかりを作らないと何の意識にも残らないのね。だから
「あのね、ぼくは、あなたの猿です……」
「え?」
「当店ではCDはケースから取り出してお持ちいただくシステムになっておりますので次回からはそうしていただくようお願いいたします」
「え? え?」
「?(にこにこ)」
とか言えばいいんだ。おれの頭の中がまっしろ。