やしお

ふつうの会社員の日記です。

山口昌男『天皇制の文化人類学』

http://book.akahoshitakuya.com/cmt/30242517

人々の反社会性・非倫理性への欲望を負わされるスケープゴートとしての王と、王のスケープゴートとしての王子。王=権力=中心に対する王子=道化=周縁。そんな王権の構造を古代天皇の物語や謡曲源氏物語、アフリカ等の民族から取り出して紹介していく。でもたくさん見出せたからこの構造が帰納的に正しいと見るのは倒錯で、見出そうとしたから見出されただけだ。(取り出し方の上手下手はあるかもしれないけど。)そうじゃなくて、なぜそうした構造を見出そうとしてしまうのか、その起源を徹底して問う態度に欠けているせいで本書は退屈なんだ。


 他人の説を紹介する時に「誰々が××ということを言っているが、これは私が△△年前に□□で述べたことである」みたいなことを散々書いているところを見ると、自我の発達が弱い人なんだなと思う。「私の方がすごい」と言わずには済ませられないというのは、心の底では自分の仕事への信頼がないからだ。
 それだから、自分の理論を疑い直すという態度が彼にとってあり得ない。そこを疑い直すと彼自身のアイデンティティが崩壊する恐怖があるからだ。疑い直して、自分の理論が間違っていても立て直せるという自信がない。
 しかし我々が見たいのは、そうした疑い直すという態度なのだ。


天皇制の文化人類学 (岩波現代文庫―学術)

天皇制の文化人類学 (岩波現代文庫―学術)