上の部屋に弟すんでる。俺が27で、弟が14だから、けっこう歳はなれてる。
俺がだいたい朝5時くらいに起きてんだけど、6時半くらいになると上の階がどすどす音してて、あ、あいつ起きたんだなって思う。そんなとき俺は、しあわせみたいなもの感じる。家族なんだなって。一緒に住んでるんだなって。
俺は夜11時前には寝ちゃうけど、弟がたまにうるさいときある。どすどすゆってて、まあかなり歳はなれてるから、しょうがないやつだなあってそんなに腹は立たないけど、さすがにあんまりうるさいと（だめだぞ）って思って天ドンする。クイックルワイパーの柄で天井をドンする。そうすると静かになる。別に怒ってはいないんだけどさ。
こんだけ歳はなれてると腹立つってことがあんまりないわけ。こっちはもう大人だし。かわいいもんだな、って思うだけ。さすがに小さかった頃みたいにかわいい一辺倒じゃなくて、多少生意気だなと思うことあるけど、それでも本気で怒ったりはしないよね。大人の余裕ってゆうかさ。これって相手を見くびってる、見下してるってことだよなと思うと、ちょっとどうだろ、一人前の男として対等に見てやらないと失礼だなとは思うんだけど、どうしてもまだ幼いところとかあるし、まだしょうがないね。
そうゆう弟がほんとにいるかっていうといないわけ。アパートの俺の上の階に住んでる人の顔とかしらないわけ。挨拶したことないしすれ違ったこともないし。
弟とかガチ非実在青少年だし。
でもそうやって弟住んでるなって思えばいい。だって顔も知らない口きいたこともないやつが、どすどすゆってうるさいと、どんどん憎悪がつもってくじゃん？ 最初は寝ようとしてるのに上の階がうるさかったりすると腹立つ。でもそのうち、ふつうに起きてるときでもうるさいと腹立つようになってくる。別に実害はなくて、ちょっと気になるっていうレベルの音なのに、すっげー腹たってきたりする。憎しみエスカレートしてく。
そういうの嫌じゃん。なんでそんなイライラしながら生きてかなきゃいけないわけ。
でも弟いるって想像すると、あんま腹立たなくなってくるわけ。帰宅部でだいたいまっすぐ帰ってきて、家にいるときは部屋にこもってるから顔を合わせることもない。特別チャラいってこともないし、特別成績がいいわけでもないし、特別暗いわけでも明るいわけでもない、ふつーの弟、たいせつな、俺の家族。上の階から物音がすると、ああ、いるんだなって思ってふいに、おだやかで、ほとんどうれしさに似たしあわせを感じるんだ。
