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船、伯父の家、ホテルの食堂、どこにいても、壁が無限に高い迷路に放り込まれたみたい。建物の全体像は把握できないし、周囲の他人は全くふいにカールを振り回す。カールの判断と対処はいつだって水泡に帰して、ただ迷路の壁に触れてかすかな凹凸を知ることしかできない。たしかに世界ってこんなふうだし、そんな不可視な世界を実現するのは克明なディテールなんだ。この「見ているものしか見えない」世界を破ってるのがテレーゼで、彼女が母親の死を語る場面は唯一外部が直接流れ込んでくる。しかも最高に美しくて惨めなんだから大好きな箇所だよ。
まったく語りは混濁してなくてクリアーなのに、「世界は見えない」という感じが強く出てくる。逆にフォークナーの「アブサロム、アブサロム!」やガルシア=マルケスの「族長の秋」は語りがぐっちゃぐちゃだけど、かえって世界がよく見えるという感じ。
そうかあ、「世界を俯瞰するなんてできない」というのをちゃんとやろうとするなら、語りを混乱させるんじゃなくて全力でクリアーに書いていかないといけないのねと思って。
最終章はもはや死後の夢みたい。前章からの繋がりが薄く状況が遊離していること、昔の知り合いがふいに登場すること、就職先の規模や面接の方法、舞台があまりに現実離れしていること等々。
もともと未完だからといえばそうなんだけど、そうした作品の外部の現実を無視して作品内の現実にだけ目を向ければもう死んでるとしか思えない。
最後の列車に乗ってるシーンとかはもうほんとに死んでるイメージしかない。
- 作者: フランツ・カフカ,中井正文
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1972/01/30
- メディア: 文庫
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