智恵子は会社に打合せがないという、ほんとの打合せを見たいという。
私は驚いて打合せを見る。
会議室にあるのは、誰かが一方的に報告するのを聞くだけの、むかしなじみの定例だ。
ただ人が集まれば自然と課題が解決されると、無自覚に信じた主催者が開く会だ。
めいめいが勝手に思いつきを言い立てれば、議論が深まったと満足する2時間だ。
智恵子は遠くを見ながら言う。
報告だけならメールで済むという。全員の同意を得たいだけなら、さっさと得て解散しろという。
課題が解決するのは、見かねた誰かが不足と落とし所をお前のかわりに示しただけだという。論点の整理や目的の設定を先にしてこいという。
勝手な意見の出し合いで終わっていいのは、あとでお前がその食材を料理すると最初から決まっているときだけだという。あらかじめよく練ったベースに追加や対案や指摘をぶつけて差異を見なければ発散するという。
そんな準備をした上でなお、他人の意見を聞くのが智恵子のほんとの打合せだという。
席を立って智恵子は帰る。
もう出席者であることをやめた智恵子に
とり残された私たちはあいまいに微笑みあう。
あどけない打合せの話である。