やしお

ふつうの会社員の日記です。

渡辺保『日本の舞踊』

http://book.akahoshitakuya.com/cmt/36814270

舞踊の歴史と分類と用語の話+現実の舞踊家7人の論評の2段構成。舞踊家でない著者として身体論には踏み込まずあくまで見る側からの分析と感情に留まる点で道徳的で、見る側の言語には踏み込まない点で倫理的でない本。舞踊を語る言葉が足りないのが問題だと著者は言うが、むしろ著者の体験する現実を超えた感動は、舞踊が直接引き起こすのではなく見る側の言語を介してしか生じ得ないという現実への諦念が足りないのが問題だと思う。でも道徳的にすら振る舞えない本だらけの世界では過ぎた文句だ。名人がいかにすごいかを語ってありがたい本だよ。


 名人の踊りはこうすごいから感動するぞ! と言われると、いや、見る側の受容によって感動が作動するってとこをカッコに入れてそれを語るのは無理だろうってなる。単に「名人の踊りはこうすごい」とか、もっと「名人の踊りは現実としてこうなっている」という位置で停止してくれてたらそんな風には思わなかった。
 それにしても子供の頃から歌舞伎、能、舞、踊りを見まくって、必死でノートをとって「この感覚はなんだ!」ってことを分析し続けてきたってのがもう単純にすごい。そんな人生が存在するってことがすごいよ。
 調べたらこの人、78歳のいまもウェブで歌舞伎評を書き続けてて、しかも「昔の歌舞伎に比べていまのはダメ」なんて書いてない。同時代の歌舞伎役者を肯定してて素晴らしいよ。
 これだけちゃんと見てくれてる人がいるぞ、って思えるのは作り手にとって幸せなことだ。こういうタガが外れると一気にダメになることがよくあるよ。(こんなぬるいことしたらあの人に怒られる)っていう抑圧がなくなると一気にダメになる作り手が一定数存在する。抑圧があってもなくても関係なくすごい人、ダメな人はいるけど、抑圧があってこそすごくなる人が確実に存在する。この人がどれくらいそういう役割を歌舞伎界に対して負っているのかはよくわからないけれど。


日本の舞踊 (岩波新書)

日本の舞踊 (岩波新書)