やしお

ふつうの会社員の日記です。

遠藤周作『沈黙』

http://book.akahoshitakuya.com/cmt/39413505

最初、視点人物のイエス理解が浅くてイライラした。でもずっとイエズス会ごりごりの中で生きてきた人にとっては前提に属する部分で、そこに枠があることすら全く気付かないレベルで堅いってことだった。それが最後、禁教中の日本で危機に瀕した時、パウロが形成したキリスト教の枠内のイエスではなく、キリスト教に現前する実践者としてのイエスを見出して、枠を超える、そんな話。後からイエスに出会うってのがパウロ同様「目から鱗」だけど、パウロよりもイエス的という。あと「きっかけに触れてからワンテンポ遅れて自覚する」という点がリアル。


 イエスが英雄として死んだのではなく無残に惨めに苦しんで死んでいる、ということを考えると、この主人公のパードレが殉教せずにイエズス会から見れば裏切り者、汚点として生き延びるというのは、パラレルに正しいあり方という感じ。キチジロー=ユダといいコントロールしてパラレルにしている。
 客観→主観→半主観→客観という構成といい、人物配置といいイベントを起こすタイミングといい抑制のしかたといい、極めてテクニカルな小説だと思うし、それを技術と呼べてしまう点であまり刺激的ではない小説。


沈黙 (新潮文庫)

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