やしお

ふつうの会社員の日記です。

興味のコントロール

 職場の新人を見ていて時々、学生っぽさを感じるときがある。自分がOJTの指導係になっているので仕事を渡したり説明したりする中で、授業を受けている学生みたいな感じがすることがある。興味があるとか掘り下げようとか、より上手くやろうとかではなく、「やることになっているのでやっている」という態度が、どこか授業を受けている学生みたいで懐かしくなる。
 でもそれは、すごくよく分かるという気がする。
 自分を振り返っても、まず義務教育の小学校で、勉強は「やることになっているのでやっている」と思い込んでいた。中学では、行きたい高校があるとか、回りにバカだと思われたくないとかで、多少は自主性が出てきていたかもしれない。それでも根本的にはやっぱり、「やることになっているので」の感覚のままだった。高専に入ってからも基本的に同じだった。進級はすることになっているので、そのために勉強をする。


 新人の彼女と同じようにもし自分が、高専卒20歳で就職していたら同じような感じだったろうなと思う。でも自分が22歳で就職した1年目のときどうだっただろうかと思い出すと、少し違っていた。
 どういう仕組みなんだろうかとか、こうした方がいいかもしれないといったことを今と変わらず考えていたような気がする。教えてくれる人の顔を潰さないように気を付けながら、少しでも工夫したり上手くなろうとしていた。
 今思うとこれは部活に似ている気がする。強圧的な顧問やコーチや上級生がいない中で、技術を上げようと工夫したり実践してみたりする感じが似ている。部活と呼ぶと途端にどこかブラック臭が漂い始めるが、少し違うのは、別にもともとやりたいことじゃないと思っているので費やす時間(就業時間)を最小にしようとしている、賃金が発生する時間以外は一切そうした労力は費やさないと決意している、といったところ。
 そうやって考えると、20代に限らず30代でも50代でも、部活っぽく仕事に取り組んでいる人と、授業っぽく仕事に取り組んでいる人とがいるなと思う。個人の職務の範囲が不明確で広がったり縮んだりふわふわしている日本の大きな会社組織のなかでは恐らく、部活っぽいアプローチの方がプレイヤーとして重宝される。


 部活っぽいアプローチにはその仕事に対する興味が必要になる。ところがもともと自分が興味のあることを、そのまま仕事にできるという幸福な事態はそうそうない。そうして興味があるわけでもない仕事を始めたときに、それでも部活っぽく取り組むか、授業っぽく取り組むかが別れてくるのは、「興味」というものに対する認識の差がきいてくるのではないかと思う。興味を、何か自然に湧き上がったりそうでなかったりするものだと思っているか、あるいは大部分は自分でコントロール可能なものだと思っているかの違いがかなりきいてくるのではないか。
 やる気があるからやるのではなく、やり始めるとやる気が出てきてさらに加速するというのとちょうど同じように、興味があるからやれるというより、真剣に取り組んで疑問を持ち続けてみれば興味が湧いてくるというような、両輪の関係にある。ほとんどの場合「興味がない」というのは自分が興味を持とうとしていないだけであって、題材が問題なのではなく姿勢が問題なのだ。そんな風に思っていればいささかの興味もなかった仕事にどうにか興味も持つことができる。
 この興味のサイクルに巻き込まれると、部活っぽく仕事に取り組むようになる。このとき、興味はコントロール可能なものであって、単に自分が今そのサイクルに入っているだけだという自覚がない場合は、本当に際限なく部活感を突き進んでいく。それはそれで楽しいかもしれないが、周りはやや面倒くさいかもしれない。


 興味に対しての認識が変わったのが、19歳か20歳、高専の5年生か専攻科の1年生の頃だった。(高専は5年間の上に2年間、専攻科という課程へ進学できる。)その頃に「やることになるのでやっている」というより「やりたくてやっている」と嘘でも思って取り組む方がかえって楽だということに気付いた。授業も主体的に受ければずっと楽しいし、楽なのだ。そしてどうせ同じ時間費やさなければならないのなら、楽しい方が得だと思い始めた。
 その新人の彼女は、そうやって興味をコントロールできると知らないのかもしれない。別にどんなやり方をしてもそれは当人の問題なので構わないけれど、どうせ自分の人生切り崩してやるなら楽しい方がマシ、と自分自身は思っているので、こんな話をどこか雑談でしてもいいかもしれない。


 しっかしさあ。
 一瞬で身についてそれ以上工夫の余地もないし許されてもいない、ただ単純作業だけがひたすら毎日求められている、そんな仕事だったら興味がどうとかもう関係ないんだよな。こんなことくねくね考えてられていいですねと言われたら終わりだもん。何も言えねえよ。