やしお

ふつうの会社員の日記です。

フォークナー『サンクチュアリ』

http://book.akahoshitakuya.com/cmt/41013892

物語と戯れるってこういうことかとようやく知った気がした。物語に支配されず、しかし疎外もしない、その微妙な距離ですり抜け続ける。これが小説性なんだ。トミーは死んだ、テンプルは凌辱されたなどとは書かれない、会話がお話を形成する寸前に他人の動作が流れ込む、ふいに視点人物が変わって断ち切られる、そうして意味に回収されそうになる瞬間に身を翻すが、物語や意味として構築して読むことも可能になってる。ところが物語として把握した瞬間、あたかも光を粒子として観測すると波動性が消えるように、この物語との距離が消えてしまうんだ。


 そういう性質(物語でありながらそうでもないような存在)は、フローベールでもドストエフスキーでも備わっているけど、ちょうどこの小説で(ああ、そういうことか)という気がした。
 フォークナー作品では他に『アブサロム、アブサロム!』しか読んだことないけど、『アブサロム、アブサロム!』はもう中の人たちまでがその物語を語りつつ巻き込まれていってしまって、やっぱり向こうの方がすげえという感じ。でも『サンクチュアリ』書いてから『アブサロム、アブサロム!』までは5年しか経ってないと思うと、(どうなってんの)と唖然とする。


 登場人物が多いのと、代名詞で指されることが多いのと、初登場時も視点を引いた紹介はなされないので再登場時と見分けがつかない、といった理由で、人物の同一性が混乱してしまうので、読みながらメモを取っていた。(これも意味への還元の一種。)再読するときにまた使いたいので、正確じゃないけど残しておこう。


ポパイ:泉でベンボウに出会い屋敷に案内
ホレス・ベンボウ:キンストンで弁護士。以前ジェファスン在住。英国オクスフォード大学出身。
ルービー・ラマー:屋敷(オールド・フレンチマン)の炊事女
リー・グッドウィン:屋敷の主? 密造酒を作っている
トニー:ベンボウを屋敷からトラックまで案内。裸足。
ミス・ジェニイ:ベンボウの妹の死んだ夫の大叔母。90歳
ガウァン・スティヴンズ:ベンボウの妹の家で妹と歩いていた小肥りの青年。ジェファスン生まれ、ヴァージニア大学出身。
ナーシサ:ベンボウの妹。大柄
ベンボウ・サートリス:ナーシサの息子。10歳
ベル:ベンボウの妻
リトル・ベル:ベルの連れ子(娘)
テンプル:大学にいる娘。判事の娘。
ドック:町の青年。ガウァンに酒を飲ませる
トミー:大木に突っ込んだガウァンとテンプルを屋敷に案内する
ヴァン:夕食でテンプルに絡む
リーバ・リヴァース:メンフィスの売春宿の女将。犬二匹を飼っている。かなり太っている。
ビンフォード:リーバのかつての恋人で故人。リーバが飼い犬の一匹の名前にしている。
ユースタス・グレーアム:地方検事。トミー射殺事件の担当。
クラレンス・スノープス:上院議員。ホレスが帰りの電車で会う。
ヴァージル・スノープス:クラレンスの従兄弟の若者。
フォンゾ:理容師学校に通うためヴァージルとメンフィスを訪れ、リーバの淫売宿に住み込む
レッド:テンプルをポパイから逃がして射殺される男
アンクル・バッド:リーバの淫売屋にいる少年(マートルの息子?)
マートル:レッドの霊柩車をリーバと見送った女。小太り。
ロレーン:レッドの霊柩車をリーバと見送った女。細身。


禁酒法時代の話
・ガウァン:金曜の晩にオクスフォードでダンス→土曜にスタークヴィルで野球の試合を見る
・ホレスとポパイが泉で出会ったのは、ホレスが離婚の手紙を書く4週間前
・5月12日:トミーが殺された日、6月20日:裁判の開廷


サンクチュアリ (新潮文庫)

サンクチュアリ (新潮文庫)