やしお

ふつうの会社員の日記です。

G・ガルシア=マルケス『幸福な無名時代』

http://bookmeter.com/cmt/47366157

週刊誌のルポなのに一行目から小説っていう。時間の密度を圧縮させた状態から一気に解放されるとやっぱり生理的に気持ちがいい。作中の時間が的確にコントロールされる。どの短編も具体的な日時を示して、数十分〜数十時間くらいの出来事として中身が具体的に描かれていくけど、途中や最後でいきなり数年、数十年の広がりを見せられる。あるいは「命の猶予は十二時間」のように大急ぎの時間が描かれてから母親の無知の緩やかな時間が最後の最後に対置されて、強いコントラストにうおーって感じ。どんなモチーフでも異様な鮮やかさで捉えられていく。


 楽しかった。思ったことメモ。

  • 具体的な日時が示される。「まさにそのとき」のような感じで、別の場所で同時刻に発生している出来事を示して並行させて、世界に厚みを持たせる。
  • 小さいところから大きいところへ急に接続されると生理的に気持ちがいい。コントラストの大きさの快楽。映画でアメリカ版のゴジラ(2014)が、狭い空間から広い空間、静かな音から大きな咆哮、小さな人間から大きなゴジラ、と広がりを持たせるような感じで見せていたのと同じようなことだ。
  • 時間の小→大:数十分〜数時間を高い密度で描いた後、ふいに数年と接続する。
  • 事物の小→大:例えば「わずか四語で障害で一番苦しい日に変えた」のような、小事を大事にほとんど距離なしで接続する。ほとんど大げさにすら見える表現。
  • 大がかりな話の中にどうでもいい(ストーリーを支えない)部分が突然挿入されると何か大げさなように見える。
  • 逆に大事は小さく見せる。「ドアを叩きつけることすらせずに」と大事件につながるような家出なのに普通に出かける。
  • 短編なのに視点人物が固定されない。かわりに出来事についてある程度固定されている。出来事にフォーカスは定まっているので、どうなるんだろうというわくわく感、サスペンスを出してくる。
  • 具体的で鮮明なイメージ。塔からばらまかれる千枚のビラ、空色のワイシャツに白いネクタイ等々。
  • 人間以外の事物が一瞬主体になる。世間の通念が彼を守る、というような。


幸福な無名時代 (ちくま文庫)

幸福な無名時代 (ちくま文庫)