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こういう小説を読んでものすごく豪華って印象を受けるのは捨てている情報量の多さのためだ。例えば物理学や気象学から政治や経済、国際情勢まで広範な知見からバックグラウンドを構築して上澄みだけを使っている。サイエンスフィクションのサイエンスは、自然科学だけでなく人文科学も当然含むんだって改めて目の前で見せてくれた。めちゃめちゃ働いてた小松左京が小野寺に「人間は休まなきゃダメ、人間が壊れるから」みたいなこと言わせてて、そういう認識なんだってびっくりしたよ。最近あちこちの火山活動が活発な中でこれ読むとドキドキするね。
この小説は「第一部 完」という表記で終わっている。確かにこの先、土地を失って世界中に散り散りになった民族がどんな変化を蒙っていくのかというのはとても気になるし楽しいテーマなんだから、「ここは終わりじゃなくて途中なんだよ」(小説としてはここで完結していても)と書きつけたくなるのは当然って感じ。
ある程度大きな会社で働いている身から眺めてると、D計画って組織としてどうやってマネジメントされていたんだろう、っていうのがとても気になってくる。最初は圧倒的に優秀で知的能力の高い人たちだけの少数精鋭ではじめて、だんだん確度が高まるにつれて人的資源が投入されて組織が大きくなっていく、という描写がされている。少数精鋭のころはお互いの意思疎通がすぐにできて目的を共有して素早くお互いがお互いをカバーして……みたいなことができるのかもしれないけど、人数が増えると途端に動きが悪くなるし、マネージャーが徹底して交通整理して、誰が、いつまでに、何をする、を大きい単位で決めてくれないと動きづらくなってしまう。お互いが(あれ、ひょっとして相手がやり始めるかな?)(ここは微妙に俺の担当職務の範疇じゃないんだよな)と平凡なフライを野手同士がお見合いして取り損ねるみたいなことがどんどん起きていく。
この小説だとその辺はまるっきり省かれていて、中田も幸長も最後までマネジメントをしている様子はなくてうまくいっている様子だった。組織員からするとどうなってるんだろ……とふしぎに思えてくる。
小松左京的には、ちょっとそこまで手を伸ばして描写すると全体がぼやけるから捨てたって感じなのか、それとも実は彼自身が組織に属して働くという経験があまりないのであまり興味がないって感じなのかな。
- 作者: 小松左京
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2005/12/06
- メディア: 文庫
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