やしお

ふつうの会社員の日記です。

大野耐一『トヨタ生産方式』

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パウロによる解釈からイエスを解放するみたいに、ヘンリー・フォード1世を読み直してフォード式の誤解から解放、根本の精神を語り直すって最高の批評だ。組織が機能するには個人技と協働能力が構成要件だ→ジャスト・イン・タイム(豊田喜一郎)が前者で自働化豊田佐吉)が後者とか、日本って国で少量多種のものづくりするってなんだ、って根本からスタートして、現実的な条件から手段を展開してくから読んでて気持ちいい。カンバンって手段だけ導入すると失敗すると断言する通り、結論だけ見ても意味ないからやっぱ原典を読むのが早いし楽しい。


 在庫を持ちたくなるのは農耕民族だからかも、って話すらしていて、その説の妥当性はともかくそこまで根本的に考えていかないとダメだ、って認識があるから読んでて気持ちいいんだ。


 自分自身がメーカーに勤めていて、まとめて作らない方がいい、なんて認識があり得るなんて考えたことがなかったからびっくりした。本書自体もう40年近く前に出版されているのに、恥ずかしい。たくさん作れば安くなる(量産効果)、というもの自体疑ったことがなかったから。そういうところに思い込みがあるんだなと思った。
 「量産効果で原価が低減する」というのが本当だとしても、「原価を低減させるために大量生産する」というのは本末転倒だ、という認識がここにはある。もっと根本的には、(数や機能や情報が)多ければ多い方がいい、早ければ早い方がいい、というような、大は小を兼ねる式の認識は全く違うはずだ、必要にして十分が完全にぴったりできてるのが最高の状態のはずだ、という確信が貫流されていて、その上で「ジャスト・イン・タイム」で「在庫を持たない」=「ぴったり作る」という話になってくるんだ。


 段取りに時間がかかるからまとめて作った方が早い=安い、というのは思い込みだと言って、それは現状のただの追認でしかないと言う。「段取りがしょっちゅう発生する」という状態になれば、段取り時間を短くしないと生きていけない、って環境になるから絶対に短くなると言って実際、プレスの段取りに2、3時間かかってたのが最終的に3分になったというのは冗談みたいだけど本当の話だからびっくりする。
 プレスの段取りというのは金型を交換するという話だと思うけど、大型製品の型だから当然ふつうは大物で、そりゃ2、3時間はかかるよね、って考えちゃうのが常識だから、とてもびっくりする。


 そうやって最終的に、「絶対に同じ種類の車を続けてラインに流さない方がいい」(平準化させるために)って言うのは、(ふつうそこまでできないよな)って話を実際にやってるから読んでて爽快感がある。最適化のためにすべてを変えて、信じられない光景を見せるって話だから。
 あまり職業に関係なく読んで楽しい本という感じ。


トヨタ生産方式――脱規模の経営をめざして

トヨタ生産方式――脱規模の経営をめざして