やしお

ふつうの会社員の日記です。

自分はこの人の専門家だというプライド

 アニメのおそ松さんで、トド松が他の兄弟に自分のイベント(趣味とか最近はじめたこととか)をちゃんと言わないって兄弟たちから文句を言われていた。
 見たあとで、そういえば以前、二人で食事や遊びに行ったりしてそこそこ仲良かったと思ってた同期が、知らないうちに結婚していて(そもそも付き合っている相手がいることも知らなかった)、そのことをたまたま出張先で一緒になった、その人と同じ課の人から聞かされて、「えっ、彼は結婚とかはしてないと思いますが……」「えっ、結婚式の写真見せてもらったけど……」「えっ」みたいな事故が起こってしまってかなり恥ずかしい思いをしたのを思い出した。


 親しくなると「自分はこの人の専門家だ」というような自負が出てくるのかもしれない。親しくなった度合いに応じて「私はこの人のことを知っている」というプライドが出てきてしまう。それだから「あなたは専門家ではない」と他人から否定されると怒るし、ちゃんと相手が情報を教えてくれないと「あなたは別に私の専門家である必要はない」と否定されたと感じて傷つく。
 例えば課長が、部長や他の課長から、自分の課の案件について「これどうなってるの?」と聞かれて「知りません」「聞いていません」と答えるのはとてもつらい。「お前が監督すべき範疇なのに把握できていないなんて無能」と思われるのはきつい。それで部下に「なんでちゃんと情報を上げないんだよ」と怒る。事後報告されたり、他人経由で初耳だと怒る。そういう感覚に似ているのかもしれない。
 どうしてお前は兄弟なのに/友人なのに/上司なのに/夫婦なのに……そのことを知らないんだ、といって他人に馬鹿にされるのが嫌だ。メンツを潰されて怒る、というのがあの「どうしてそういうこと言わないの」という非難を導いていく。


 こういう構造を見てみると、この延長上に束縛やストーカーという形が見えてくる。「私はあなたの専門家である」というメンツを保つために、相手に自分の知らない行動をしてほしくない。他人が自分よりもこの人の「専門家」であるという現実は耐えられないから、自分以外の相手と付き合ってほしくない。
 「自分はこの人の専門家だ」という自負やメンツを脱ぐというのが、ストーカーの治療になってくる。その自負を捨てると、本人でもびっくりするくらい気持ちが楽になるし、(なんであんなにこだわっていたんだろう?)と唖然とする。
 例えば親子でも、「あなたはこの子供の責任者でしょ」って空気で圧迫されたお母さんが、子供に「なんでちゃんと言わないの!」と怒ったりして束縛したりする。そのうち子供がだんだん大きくなって自分で判断してできることが増えてくると「なんで自由にさせてくれないんだ!」となって親の側との齟齬が出てくる。そうしてそのうち「私はこの子の専門家ではないんだ」という納得が訪れるとその親ははれて子離れという感じ。


 アニメの中では、おそ松(長男)とチョロ松(三男)と一松(四男)に「なんでそういうこと言わないの?」って言われてもトド松(六男)はピンときてない様子だった。カラ松(二男)と十四松(五男)は終始だまっていたのでこの二人もあまりわからないタイプなのかもしれない。割とはっきり「なんで言ってくれないの?」というタイプと、「別に言う必要がないから」というタイプに二分されるというのは面白いというかリアルだなと思った。
 仕事でもないプライベートの関係で、「自分はこの人の専門家だ」という自負が出てくるタイプと出てこないタイプ。
 「なんでそういうこと言わないの」とおそ松に言われてトド松は「別に興味ないかなと思って」と言っていた。もともと「人が他人のことで(仕事上の必要性もないのに)把握する義務を感じる」という感覚がなければ当然、「必要性があること(明らかに面白い話とか)でなければ別に話さない」となる。


 自分自身はどっちかというと、仲良くなった相手には「なんで言ってくれないんだ」と思うタイプだった。正確に言うと、「なんで言ってくれないの」と思うけれど、それを相手に要求するのは筋違いだと思ってるので、事後報告や他人経由で知っても「ああそうなんだ」となるべく何でもない風を装っている。
 それで「別に言う必要がないから言わない」っていう感覚があんまりよくわからなかった。
 でも、自分がアイドルや芸能人に入れ込んだことがないし、熱愛報道が出てもショックを感じたことがない、ということと思い合わせると、ようやく両方の感覚がわかるような気がする。「友達なんだからなんで言ってくれないの?」とはまるで思わないという感覚と、アイドルの熱愛が発覚して「なんで!?」と思う感覚の、自分があまり実感したことのない2つの感覚をどちらも、ようやくわかったような気がした。