やしお

ふつうの会社員の日記です。

お口のよろこび

 もし会社の後輩とか、甥っ子が中学生になったときに、英語の勉強どうしたらいいって聞かれたら、とにかく最初に発音をしっかりマスターしなよってぜったい言う。
 まだ聞かれてもないのに、もう答える準備してる。変なの。でもぜったいおすすめ、もったいない回り道してほしくないから。

  • 「お口のよろこび」でお勉強ちょう楽しくなるで
  • 「文章を把握する/構築する」能力とは独立してるで
  • スピーキング/ヒアリング能力の足しになるで

 前の2つが「どうして最初にやるのか」の理由、後の1つが「なんでやるといいのか」の理由。


お口のよろこび

 お勉強は楽しくないと絶対に続けられない。
 「言語学習は『量』が必要になる」→「量が必要=長く学習を続けないといけない」→「つまらないことは絶対に長続きしない」というわけで、楽しくしないとやってられない。
 「密度を増やして量を達成する」という手段もあるが、英語だけに興味関心があるわけじゃないから余暇を全投入なんて無理だ(学生なら英語だけを勉強しているわけじゃない)。


 普段しゃべる日本語とはまるで違う口や息の使い方をすると「お口のよろこび」があって絶対に楽しい。日本語をひきずったしゃべり方より断然楽しい。「楽しくする」ために発音を先にしっかりやっておく。
 「festival」とか言ってて楽しい。fとv、濁る濁らないのヴァリエーションを交えて同じ音がテンポよくきて気持ちいい。最後のlもいい。あー、英語を言ってるなあーーっ、という気持ちよさある。
 「laptop computer」も超いい。lとtがいい。pの繰り返しも楽しい。あとpの前のmもかなりいい味だしてる。


 「laptop computer」と口に出した瞬間、ナボコフのロリータの冒頭の記憶が一気によみがえってきた。
 これはもう、信じられないほどの「お口のよろこび」の洪水。よろこびが、びしゃびしゃになってる。(そのように意図して書かれている。)

Lolita, light of my life, fire of my loins. My sin, my soul. Lo-lee-ta: the tip of the tongue taking a trip of three steps down the palate to tap, at three, on the teeth. Lo. Lee. Ta.


 「お口のよろこび」を覚えてしまうともうそれを味わいたくて英語の本や教材を手に取りたくなる。映画や教材の声のまねをしたくなる。それほどの吸引力が「お口のよろこび」にはある。自分がまるで違う人間になったような楽しさ。
 ディクテーション等、黙読より音読の方が学習効果が高いと言うし、その面でもお得だ。


発音は英文の能力とは独立している

 英語の勉強のメインは英語の文章を組み立てる/理解する力の開発になる。でも発音は、アルファベットの書き方と同じで英文の能力とは割と独立している。英文の意味があまりわからなくても流暢に発音することはできる。
 最初に発音の基礎だけ身に付けておけばその後、英文の能力を上げていくときついでにそのまま発音の能力も上げていくことができる。逆に基礎をやっておかないと、この「ついでに」身に付けていくことができないからもったいない。


スピーキング/ヒアリング能力の足しになる

 発音はそのままスピーキング能力に直結するし、ヒアリングも発音を正確に理解していればほとんど省略されているような音でも聞き取る(補完する)ことができる。
 またライティングにしても、基本的に発音と綴りは対応しているので発音を正確に理解していればスペルミスを減らすことができる。初見の単語でもだいたい読める(フランス語由来とかでない限り)。


 日本人は発音を気にしすぎるからダメ論がはびこっている。発音が下手なのを恥ずかしがっていつまでも喋らないからダメという。だったらちゃんと発音できるように最初からやっておけば恥ずかしがらずにすむ。


発音のお勉強

 そんな話をして、あと適当に教科書の英文をデモで読んであげたりして、中学生になった未来の甥っ子に「じゃあ発音やってみよっかな」と思わせたところで、お勉強のステップを伝える。


(1) ひとつひとつの音を正確に発音できるようにする
 すべての発音記号を、単独で正確に発音できるようにする。
 学習用の辞書の冒頭にだいたい載ってる。グーグルで「英語 発音記号」とでも検索すれば解説&音声も出てくる。
 正確にお口の形と息の使い方をマスターする。母音を勝手につけ加えたりしない。
 発音記号を見ればその音を即座に出せるまで練習する。これで8割がた終わっているという感じだから、中学生でも大人でもとにかくやればいい。


(2) アクセントという概念を知る
 自分は子供のころこれがよくわからなかった。「強く発音するところ」と言われても意味がわからなかった。
 これはメロディで、音が高くなるポイントがどこかということ。標準語で「せまい」と言えば「ま」が高くなるからそこがアクセント。長い単語だと一番高いところ/二番目に高いところと複数になる。発音記号に指示がある。


(3) いろんな単語をゆっくり発音してみる
 発音記号を見て、アクセントの位置にも気を付けて、一音ずつ超ゆっくり正確に単語を発音してみる。この時点でけっこう「お口のよろこび」がある。慣れたらちょっと早くしてみる。
 (1)や(2)の作業に飽きたら、先にちょっと(3)を体験してみるのもいい。


(4) 文章をゆっくり発音してみる
 単独の単語だけでなく、文章には文章のアクセントがある。他の単語と比べて、音が高くなる+発音が明瞭になる+音量が上がる、という単語がある。教材CDの音声を聞いたりして真似る。基本的な理屈は「言わなくてもわかるところは弱くなる」。
 これがきちんとできる(メリハリがつけられる)ようになるのはちょっと時間がかかる。「強調する必要のない箇所/ある箇所」は結局、英文の内在的なロジックが身に付かないとよくわからないからだ。


(5) だんだん早く発音してみる
 「ゆっくりから始める」を強調してるのは、いきなりナチュラルスピードでやろうとすると結局「それっぽい風」にしかならないからだ。
 ナチュラルスピードだとその音は聞こえなくなるけど口が一瞬その形になってるのでそれに合わせて前後の音が微妙に変化している、といった微妙な細部が積み重なって発音が成立してる。そこまで再現するには、ゆっくり正確にできるようになってからスピードを上げるのが結局近道。


(6) 聞く、真似る、この繰り返し
 聞いてると「あ、文末の『l』ってほとんど『ォ』に聞こえるな」とか色々気づくので、それをちょっとずつ拾って真似ていく。文章を音読していく。ここまでくると「お口のよろこび」がかなりすごい。楽しい。これをずっと続けていく。
 わざわざ発音をやるというより、英文の勉強のときついでにやってく。気づいたらやってる。


 3年も経てば他人に「わー」って思ってもらえるレベルになる。
 そんであとは、映画の予告編のモノマネとか、コリン・ファースのしゃべり方のモノマネして遊ぶとか好きにすればいい。


英語の文章のお勉強

 それで、
「英語のお勉強ってどうしたらいい?」
って言われて
「その前にとりあえず発音をやるんだ!」
というのはぜんぜん回答になってない。英語のメインは英文の把握/構築能力で発音はあまり関係がない。でも環境整備の一環としてオススメよ、というだけだ。
 じゃあ「英文の把握/構築能力」はどうするんだって言われたら「英語上達完全マップ」のサイトでも読めばって言う。


 あと基本方針で
「大まかなところ→細かいところの順で勉強する(細かい文法より先に瞬間英作文をやるとか)」
「無理矢理おぼえずに理屈で納得する(慣用句を丸暗記せず単語一つ一つの意味から演繹するとか)」
「日本語と一対一対応させずに単語の核のイメージを把握する」
「自分の習慣に勉強をプラスさせる(もともと読書習慣があればラダーシリーズを読んでみるとか)」
等々、きりがない。



 そんで、甥っ子が5年後にほんとに中学生になったら、もうGoogleが高精度のリアルタイム翻訳を提供してて、英語を勉強する必要性がなくなってれば最高だ。
 そして外国語がかんぜんに教養科目になる。ほんとにお口のよろこび、言語感の差に触れるよろこび、そんな純粋なよろこびのための科目になってたら最高。