やしお

ふつうの会社員の日記です。

チームスポーツだっていう感じ

 サッカーの試合をしていて、十分にスペースが空いていたり他の選手がフリーになっていたりするのに、「いやいや、先輩にパス出すなんて申し訳ないので……」とか「これ俺のボールだし!!」といって自分一人で無理やりドリブルしてシュートに持ち込もうとしたりして試合に負けたら、何やってんだという話になる。まして試合に負けて、「でも僕はたくさん走りましたよ」と偉そうに言ったって、「だから何だ?」ってなる。でも同じことが、職場なんかでは平気で起こる。つらい。
 本人はすごく気を遣ってくれてる。相手に申し訳ないからと思ってくれてる。でもその結果、パスを出さない。チームで協力して試合を上手に進めて勝つってことが一番目指したいところだし、むしろそれができてないってことの方を申し訳ないと思ってほしいのに、そこの価値観がずれてしまっているとつらい。
 そして非常に恐ろしいことに、監督(チームのリーダーや課長)もまた、「申し訳ないから」といって振らなかったり、気を遣って直接的な指示や指名を避けたりする。「お前がやるんだ」と言わずに「君たちやっといてね」と漠然とした指示を出して、お見合いになってフライのボールがそのままみんなの目の前で誰も取らずに落ちたりする。(あれ、あの人が取るのかな?)(いや、取らないかな)(さすがに今動き出さないとまずいだろ!)ってチキンレースみたいなことをさせられるのはプレイヤーとしてはとてもつらい。
 パスを出さずに自分でドリブルしてゴールする方が偉い(自分の担当分は全部自力でこなすのが当然)とか、試合に負けても走り回ってる人の方が評価される(効率的に仕事をこなして残業なしで帰るより、非効率なやり方で残業しまくってる人の方が頑張っているといって評価される)とか、最初から予想して動くよりギリギリで動き出してダイビングキャッチとかするのがファインプレーだとか、雑用は若いやつがやるべきでそれを先輩や年配にやらせるなんてとんでもないとか、そうした価値観が実際に職場の中にあったりすることはよくある。


 俺はピッチャーだからピッチャーの仕事しかできないし他のポジションのカバーに回れない、なんて贅沢は普通職場では許容できない。それが許容できるのは控えの選手や二軍の選手を大量に抱えておけるような場合だけだ。ぴったり9人で試合してますって草野球みたいな状況なんだから、ピッチャーだけどキャッチャーもできますとか、内野手だけど外野手もできます、バッティングもそこそこできます、くらいじゃないと途端に非効率な状態になってしまう。だけど実際には、あの人ピッチャーだから、ピッチャーしかできないから、と言って仕事を振らないし、じゃあ一塁くらいはできるようになってもらおう、というトレーニングもしなかったりする。雑用は若手がやるものだ、といった思い込みもこれと同じ。


 もしチームスポーツの試合だったら当然だと思うようなことが職場でできないのは、スポーツと違って明確な「試合」という単位がないからかもしれない。職場の中だと、試合/トレーニング/オフでの人間関係、といった状況が混然一体となって分かちがたくなってる。それに監督やコーチやプレーヤーといった役割を個人の中で使い分けなきゃいけなかったりする。スポーツだったら「試合という単位の中では先輩後輩関係を解除する」といった合意が作りやすくても、職場だとその単位が明確じゃないからむちゃくちゃになってる。今は試合中でもある、という感覚が薄いと、「でも申し訳ないから」とか「でも俺の方が先輩だから」といった気持ちの側が大きくなり過ぎて、試合が上手く進められない。気を遣う分と試合だと割り切る分と、どっちかに偏りすぎたらダメで、上手にバランスしないといけない。