やしお

ふつうの会社員の日記です。

宇野弘蔵『資本論に学ぶ』

http://bookmeter.com/cmt/58389818

やっぱり『経済原論』をいきなり読むよりこっちを先に読んだ方が分かりやすかったかもしれない。マルクスの立ち位置、自身の立ち位置、理論の概観やポイントを語っているのでこっちを先に押さえた上で「原理論」の中身を見ないと、抽象的すぎて位置を見失って迷子になる。講演やインタビューなので平易だし。原理としてのマルクスの『資本論』について主に語ってるけど、それ以外にもその外側の話、科学って何、原理って何、現実への応用って何、って認識もあれこれ語ってて、『経済原論』ではほとんど抑圧されていた話だったから聞けてありがたい。


 宇野弘蔵による『資本論』の原理に関する認識のメモ

  • マルクスの『資本論』の3大法則は、価値法則、人口法則、利潤率均等化の法則
  • その中でも価値法則、価値論における「労働力の商品化」が全体にとって最もコアの部分。資本主義の特殊性は「全ての経済を商品形態で処理する」という点で、その軸が「労働力の商品化」。
  • 【価値論、労働価値説】 「商品の価値」が結局「労働時間」で決まることになる。労働時間を基準にして他の生産物の価値もみんな決まる。価値形態論は商品論からは導けず(需給関係のみで価値が決まるわけじゃない)、資本の生産価値に入らないと無理
  • 人口論】 資本の成長と人口の関係を明らかにしている。生産能力が増大すれば人口は追いつかなくてもいい=人口の増大ペースより資本の成長ペースの方が早くてもOK
  • 【平均利潤率】 資本は儲かるものの方へ向かう→平均利潤率が成り立つ
  • 【窮乏化法則】 マルクス人口論から展開してる。生産方法が高度化する→過剰人口が増える→窮乏化する、という流れ。でも「生産方法が良くなり続ける」という前提が成り立たないから、直接展開できないため誤っている。固定資本を考えに組み込むと、その前提が成り立たない
  • 【恐慌論】 価値論と人口論の組み合わせで導くことができる(しかしマルクスはそこには到達していない)。商品価値は労働時間が決める→しかし労働力は直接生産されない→労働力を生産するための労働時間=労働者が一日に必要な生活飼料、という関係にあって、「では生活水準が何で決まるのか」が恐慌論を導くことになる。好景気だと生産方法を改善せずに生産力を増そうとする→過剰人口が吸収される→賃金が上昇する→前よりも利益が出なくなる(不景気だと逆に生産方法を改善しようとする)、という流れの中で景気循環が生まれて恐慌論になる。ここを見ないために『資本論』がシステムとして不完全なのではないかという認識
  • 【資本の蓄積】 生産手段を持たない=労働力を売らざるを得ない(そうしないと生きていけない)労働者(=土地を持たない農民)の存在が、資本の蓄積にとって必要になる→土地の私有を認めるだけで次男・三男があぶれて(長男だけが土地を相続するので、それ以外は土地を持たない)この労働力になる


資本論』の原理に関する以外の認識についてのメモ

  • 宇野弘蔵マルクスの『資本論』を、レーニンの『帝国主義論』と組み合わせて読んでいる。そのために「資本論を原理・システムとして純粋化する」という方向に行ったという認識。
  • 資本論』はちょうど歴史的に現実の資本主義が純粋化していく(現実が原理論に近づいていく)タイミングで書かれている。それで
  • 自然科学は原理を技術に応用できる。相手が物だから反応を防げる。社会科学だとリアクションが出てきてしまうのでそのまま技術に転化できない。ここを混同してそのまま原理論(科学)を経済政策(技術)に転用しようとすると失敗する。
  • 現実的に何かしようとすれば(政党になって政策を立てるとか)それはイデオローグにならざるを得ない。一旦原理論を切り離して、「こうする」って言わないと何もできないから
  • 社会主義は人間が自分でつくったものに支配される社会からの解放を求める→人間としては当然の願いであることは確か。資本主義が「労働力を商品化する」という点をコアに持っている以上、そこを何とかしようとするのが社会主義(であるはず)
  • システム論をやるときは、現状と切り分ける必要がある。その切り分けをしないままやろうとしているのが近代経済学
  • 経済学の目標自体は現状分析のはず。ただ自分(宇野弘蔵)はそこまではやっていない。それに先立つ原理論をやっている。