やしお

ふつうの会社員の日記です。

石井光太『絶対貧困』

https://bookmeter.com/reviews/64741927

「貧すれば鈍する」「貧乏暇なし」という言葉は、お金がない=生活上の全分野でバッファがなく、金の工面に忙殺される結果、本人の知性も時間も蹂躙されるってことで、これが極限(絶対貧困=一日1ドル以下の生活)になると時間単位が今日や今になって、未来や将来を奪われる。それでもある程度コミュニティが形成できていればリスクの分散や「次の世代に賭ける」行動も生まれるけど、ストリートチルドレンだと最初から本人にとってどうしようもない形で奪われてしまう。本書は悲惨さにも美談にも偏らずに、実際の生活や思考を広く紹介してくれる。


 ストリートチルドレン男児が毎晩のようにレイプされてしまう。(女児は誘拐されたり売春させられたりしてストリートチルドレンとして存在できない。)あるいは病気になればすぐに死んでしまうし、簡単に車やバイクに轢かれてしまう。そうした苦痛から免れるためにシンナーを吸ったりする。施設に保護されてもシンナーなしでの苦痛に耐えられずに脱走したり、あるいは「怪我をしてる間はレイプされないから」という経験がよみがえって自傷行為をしてしまう。運よく成長しても、今度は自分が他のストリートチルドレンをレイプしてしまう……。
 といった話を見ていると、人生って何なんだという気がしてくる。日本だと低所得者(年収300万円以下)問題が話題になって、それはもちろん解決されるべき話だとしても、桁違いの人生の奪われ方をされている。フィリピンとかでストリートチルドレン支援をしているICANという認定NPOに数年前から寄付をしていて、時々活動レポートが届くから読んだりはしていたけれど、本書だともう少し赤裸々に実態を描いてくれる。本書はフィリピンを含めて東南アジア・インド、中東、アフリカでの、ストリートチルドレンだけでなく性産業や物乞い、生活様式の話なんかを広く紹介している。
 それにしても「一緒に住み込んで生活してみる」というスタイルは本当にすごい。「そこまでしないと本当にはわからない」という認識があるからだとは思うけれど、認識があっても実際にしてみるというのはやっぱすごい。


 あと、路上生活者がギャング化・凶悪化してしまう背景に、その地域社会から「見捨てられる」というのがあるという指摘が印象的だった。「あいつらは何か怖い」といって地域社会の生活から排除(店で働かせないとか)したり、物乞いに「どうせ薬代に消えるだけだから」「何か変わるわけじゃないから」と施さないでいると、もう窃盗や強盗をしないと生きていけなくなってしまう。「あいつらが拒否するから俺らがこうなった」という。そしてますます「あいつらは怖い」となって地域社会との断絶が起きていく、という悪化のスパイラルがある。

絶対貧困―世界リアル貧困学講義 (新潮文庫)

絶対貧困―世界リアル貧困学講義 (新潮文庫)