やしお

ふつうの会社員の日記です。

板坂耀子『平家物語』

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本書のメインの話とは関係ないが、「出家」が今でいう政治亡命に似た位置付けらしいということを初めて知った。平家物語のエピローグで、平氏の幼い生き残りである六代を母親が出家させることで源氏による処刑を免れようとするが、これは出家が政治的な無害化を意味しており、権力者が海外に亡命することで政治権力を失う代わりに生命を保護するのと似ている。出家後も影響力を保持した清盛は、亡命しながら母国の政治に影響力を及ぼす例と似ている。「別の世界」として機能する空間が、現在は外国なのが、当時は仏門だったようだ。

 平家物語の内在的なロジックを説明してくれるのが楽しい。観客の反応を見ながら修正されていった結果、形が整合的になっている(現実の人間に比べてキャラが一貫していたり、価値観の対立軸が明確だったり)。前半は重盛(良)vs清盛(悪)、後半は知盛(聡明)vs宗盛(愚昧)って対立軸が設定されてるとか。全体としては神仏に背いた罰の結果で平家が衰退していくという認識、ただ個別の戦闘結果とかは具体的な個人の判断が効いているという認識とか。あるいは積極策(強行突破や奇襲)を一貫して支持しているとか。
 今の自然主義に慣れた目から見ると「うそっぽい」「リアルじゃない」と見えても、それは楽しみのポイントが違うだけだという。
 あとすごく面白かったのは、戦闘が終わって勝敗が決まったあと、処刑される前に敗者と勝者のあいだで言論での勝負がまだあるという話。勝った方は「これはお前が悪いことをした結果だ」という論理に持っていきたいし、それを相手に認めさせてみじめな気持ちにまみれて死んでくれないと困る。一方で負けた方は「勝負の結果として負けたが、そもそもはお前たちの方が悪い」という論理に持っていきたい。そうして勝者の部下や周囲の士気を上げるか下げるかがかかってくる。そのために敗者が死ぬことは確定しているけれど、その中でロジックを猛烈に組み立ててバトルしている。