やしお

ふつうの会社員の日記です。

中井久夫『分裂病と人類』

https://bookmeter.com/reviews/69407293

分裂気質の特徴を電気回路の微分回路と対比し、執着気質が日本社会で倫理的とされていく起源を二宮尊徳の生涯から描き出し、西欧の精神医学が主流に見えて異端であることを魔女狩りといった現象の分析を交えて明らかにする。何をどうしたらこんな縦横無尽に書けるんだと思いながら読んでたら、後書きで「これらの著作や論文から課題や疑問を得てこういう探求の方向になった」と種明かしされるけど、高度なマジックはいっそ「魔法です。」とでも言われた方がまだ納得できるみたいな気持ちになる。

  • 分裂病者の特徴は、電気回路の微分回路の特徴と似ている
  • かすかな兆候を敏感に拾い上げる、ノイズの吸収力がない、時間経過で出力が入力に追従しなくなる・現実を吟味できなくなる
  • その特徴は狩猟採集民にとっては有利に働くものだった
  • 分裂気質に執着気質が対置される
  • 執着気質は強迫的であるが、この気質が現代では美徳とされている
  • 「強迫的であること」を身に付けることが社会復帰への条件になっているので、執着気質に基づくうつ病は社会復帰できても、分裂気質の人には難しい要求になっている
  • 「強迫的であること」、整理整頓しないと気がすまない、きちんとしていないと耐えられない、こつこつ努力を積み重ねる、といった気質は農耕にとっては重要だが、狩猟採集にとっては重要視されない
  • 農耕ベースの社会にとっては執着気質は適したもの、分裂気質は不適合と見なされる
  • 分裂気質はしかし非常時に有用になる
  • 分裂気質にとっては「世直し」=課題の発見が、執着気質にとっては「立て直し」=課題の解決が得意となる
  • 幼少期、分裂病者(分裂気質)は甘えを知らないか恐怖するため大人に反抗しない、目立たない、手がかからないという意味での「良い子」に、うつ病者(執着気質)は甘えを良くないこととして断念するためよく気がつくという意味での「良い子」になる