やしお

ふつうの会社員の日記です。

閉鎖的な人事で悪習が生き残る

 神戸製鋼が検査結果を改竄した話で、改めて調査報告書を読んでいたら原因の一つに「閉鎖的な人事」が挙げられていて、ああ、それはなんかわかる、という気がした。
(85ページの報告書がpdfで上がっている↓)
 当社グループにおける不適切行為に関するご報告|KOBELCO 神戸製鋼


 不祥事のメインはアルミ・銅事業部門で、顧客仕様を満たさない製品を検査結果を改竄して出荷していた、'70年代から今までずっと続けていた、それが事業部門の売上の数%に達していた、という話だった。(他の事業部門やグループ会社でも改竄その他があったけれど、それほど長期間続けられていたのはアルミ・銅事業部門だったという。)


 実際に改竄を実行したり指示したりしていた人の中には、課長や工場長や、中には役員になった人もいたという。せっかく管理・監督する立場にまわっても、自分が以前していたことを「やめろ」と言うのはかなり難しい。「じゃあ過去のお前はどうなんだ?」となってしまう。
 自分のことを棚に上げられる人だったら是正できるのかもしれないけれど、そういうタイプの人はわざわざ自分の不利になることや面倒なことはしなさそうだ。自分を棚上げにできる人はわざわざ直そうとしないし、棚上げにできない人は直せないんだとすると、デッドロックという感じ。


 そうなるとクリーンな人をよそから持ってきて責任者にすればいいという話になるけれど、地理的・技術的なハードルからそれが進まなかったという。

特に、アルミ・銅事業部門については、それ以外の事業部門の主要拠点が集まる関西地方に拠点を有しておらず、他事業部門との相互交流の機会が少なかったことに加え、事業部門の各拠点が、関門地区、関東地区、中部地方といった遠隔地に点在しており、拠点ごとに金属の種類(アルミ/銅)や製造プロセス(板圧延/押出/鋳造/鍛造)が異なっていたこともあいまって、拠点相互間の人事交流や人事異動も少なく、閉鎖的な組織運営がなされていた。
(報告書:p.50)

製造拠点の専門性を重視するあまり、同じ事業部門の中でも製造拠点間の異動は製造、品質保証に係る部門では特に少なく、閉鎖的な組織運営となっていた。
(報告書:p.71)


 検査部門・品証部門は製造部門と同じく「現場の人」「工場の人」という扱いだったから「違う工場に異動させる」という慣習自体がなかったのかもしれない。
例えばこの日経の神鋼の採用に関する記事を見ると、

  神戸製鋼所、18年度427人中途採用 過去最多 :日本経済新聞
「18年度の内訳は総合職が194人、異動がなく高卒が中心となる基幹職が233人。」という記載もあって、もし神戸製鋼で工場がある地元の高卒を「基幹職」として採用していて、検査・品証部門も基幹職の人たちが担うのだとすれば、「その工場の中だけでクローズしていた」というのはよくわかる。


 そうした制度的な制約がなかったとしても、
遠方への転勤を伴う異動は労働者側の負担も大きいのでハードルが高くなる。事業部門の中で生産拠点が離れたところにバラバラに位置していたという地理的なハードルと、現場知識を身に着けるのにコスト(時間・手間)がかかるという技術的なハードルから、閉鎖的な人事が常態化してしまったという話は、特に神戸製鋼に限らずよくある話なのかもしれない。


 二重のハードルで閉鎖的な人事という環境が作られていて、内部昇格で新人から管理者まで手を染めた人ばかりになって、さらに「昔からこうしているから」「実害はないから」というエクスキューズが用意されれば、「30年以上も不正を続けてきた」「誰もそれを改善させなかった」という異常な事態も(まあそうなるよね)という気もする。
 これは製造業に限った話ではなくて、事務系の組織でも、学校の部活とかでも同じだろうと思う。少し考えれば「これ変だよね」とか「おかしい」とか思うことでも、もともと指示される側の立場にいた人たちがそのまま指示や監督、指導する側に昇格しているような組織だと、たとえその人たちがいなくなった後も悪習が残り続ける。人間がやっていたことなのに、人間じゃなくて組織の気持ちとしてやっているみたいな感じになってくる。




 再発防止策として、

  • 品証の人を全社的な専門人材という位置付けにして事業部門間でローテーションさせる
  • 全社的な品証統括部門を作る、品証担当の執行役員を置く

と報告書の中では語られている。


 「現場の専門性が高かったのでよその部門から異動させるのが難しかった」という課題に対しても、強制的に「定期的に素人が来る」を常態化させれば実際何とかなるんじゃないかって気がする。今までニーズがなかったから「どうやったら最短で素人を教育できるか」を真剣に考えてこなかっただけであれば、ニーズを作れば現実に何とかしていく。勘コツを言語化してマニュアルとトレーニングを整備すれば寿司職人を1年でつくれる、という話もあるくらいだし。
 現場の職人を作るのは時間がかかるかもしれないけれど、少なくとも「管理職がその現場の仕事や課題を正確に理解する」なら1年以内で完了できる(しそれをするのが管理職の仕事)だろうと思う。


 自分自身が大手メーカーで品証部門→検査部門で働いていて、報告書を読みながら他人事じゃないよなという気もした。
 有難いことに検査結果を改竄する場面を見聞きしたことはない。もしかするとそれは、品証や検査の担当課の課長が毎度よそから来た人達で内部昇格が無いのが実は良かった面もあったのかもしれないと少し思った。
 ただ全社的な品質管理部門は存在していても、そこと各事業部内の品証部門の間で人事異動がほとんどないのは改善される方がいいのかもしれない。全社的な品証でジェネラルな技術を身に付けさせて、各事業部の品証でプラクティカルな技術を身に付けさせる、それを定期的に回していくというような。


 あとは「検査する人」と「解決する人」が一致していると「対応が面倒だからこの不良はなかったことに……」という気持ちが働くから分離するとか、納期のプレッシャーが直接検査員にかかると「この不良が無ければ……」という気持ちに傾くからここも分離する(営業や生産管理側が「不良判定なら絶対にどうしようもない」と理解している)とかだろうか。