やしお

ふつうの会社員の日記です。

自分の嫌なところを相手のせいにする苦しみ

 自分の悪いところを目撃するのはつらい。「今のは自分が悪かったな」と素直に思えるレベルの話は自分の中でも整理がついているから別にダメージなんて大してないけど、無意識に「相手の落ち度のせいでこうなったんだ」と言い聞かせて、でも本当は「自分の弱さや悪さだったんじゃないか」とベースで思っているような状態が一番つらい。心がもやもやして、いつまでも頭の中でそのことがぐるぐるしながら苦しい。どうしても「自分が悪い」を正面から認められないから「相手が悪い」の理由を探し続けてしまう。自分で自分を軽蔑せざるを得ない、自分自身を肯定できない、というのは本当にしんどい。
 今週、仕事中にそういうことがあったから記録しておく。懺悔とか告解に近い。


 1ヶ月前にとある製品で品質問題が発生して、その時点で在庫品が問題ないか、どうして事故が起こったのか等々の調査をして、結局その時は工程上での対策(発生防止)は難しいから検査で押さえよう(流出防止)という話になった。
 大手メーカーの検査(兼技術)部門で働いていて、外注先起因の品質問題が発生した場合その対応(原因の追究や対策の実施)はうちの仕事になる。一方で品証(品質保証)部門もいて、市場で品質問題が起こるとまずは品証が情報収集をして原因が設計起因なのか使用法起因なのか製造起因なのか何なのか切り分けたり、関係部門に対応を依頼したり、最終的に「この対応で行く」という判断を下したりしている。


 それで事故から1ヶ月が経って突然、品証から検査へこの品質問題に関する「回答依頼」の書類が届いたのがこの懺悔の大元になっている。「これは製造問題だから原因追及をして工程での対策を実施して下さい」と書かれていて、それは別に普通のことなのに、なんか(ムッッ!!)としてしまったのだった。1ヶ月も経ってから出すなよとか、放置してた癖に後から丸投げするなとか、自分達だって当事者なのに他人事みたいに言うなよとか、そんな感じ。
 攻撃されているわけではないのに、自分が攻撃されたように感じて反応してしまう。勝手にマウント取られたみたいに感じてマウントを取り返したくなってしまう。そういう心情の働きだった。
 工程改善は検討したが難しいから流出防止でやることになった、品証は品証で設計と協力してそもそもこの問題が起こらないように改善するように検討しろ、みたいな内容で受け取った当日中に書類は回答したのだった。「お前らがちゃんとやってない」と言われたからには「お前らだってやれてねえだろ」と言い返したくて「そちらはそちらで検討を進めて下さい」みたいなことを書き加えているし、即日回答を出しているのも「この話はもう終わってるのに今さら何を言ってるんだ」と暗にほのめかしたり「そちらは1ヶ月も放置してたのにこちらは即日回答した」みたいなマウンティングになっている。どう考えても冷静なあり方じゃない。


 翌日になってその品証の担当者から電話がかかってきた。「あの回答内容だと設計問題だと言っているように見えるが違うはずだ」「工程の問題だから発生防止をやはり検討するべき」という話で、「いやいやあり得ないでしょこんなの」みたいな言い方だったからもう腹が立って、こっちも課長のハンコついて出してる以上引けねえしみたいな気持ちもあって反発してしまった。
 向こうはたぶん、何でこっちがこんなにゴネて反発してるのかたぶん全く理解できないだろうと思う。単に根本対策が面倒くさいだけ、と思われているかもしれない。向こう側の視点からすればいきなり敵愾心むきだし(に見える)回答が返ってきて、「なにこれ」とクレームを入れたら、さらに相手が怒りだしたように見えているはずだから、間違いなく「なんだこいつ」と思っているに違いない。
 ちなみに主張としては相手の方がもっともで、今回の事故は設計改善より工程で改善すべき話で、それも検査工程の改善(流出防止)ではなく生産工程の改善(発生防止)で工夫する方がいいに決まっている。それでも口では「既に検討した結果が発生防止が難しいから流出防止で行くって話になっている」「設計問題が原因の全部だとは書いていない、読み方の問題じゃないか」などとゴネながら、頭の中ではだんだん(あー自分のが筋悪だなあ)(どう落としどころに持ってこうか)と思いを巡らせていた。


 完全に自分がシステム上の害悪そのものじゃん。感情のせいで無益な仕事を作ったり時間を浪費したりする。自分が一番嫌いだと思っていることを、その自分自身がやっている。自己嫌悪としか言いようがない。それですごく嫌な気持ちになっていった。
 でもここまで来ちゃうと素直にこっちの間違いだって認めるのが難しくなってきてしまう。「私が馬鹿だからこんな回答を書きました、それを通したうちの課長も愚かです」なんて言えない。それで相手が「ほーらね」って思うのも耐えられない。
 「設計問題がメインのように読めてしまうということなので回答は書き直す、先に文案をメールで出すから確認して下さい」という話に落としてとりあえず電話を切ったのだった。実質的な内容は同じまま、ただ書き方で、工程の問題がメインになるように調整した文案を送った。電話と書き直しで1時間弱くらいを消費してしまった。本当に無駄なことをしていると思うと嫌な気持ちになった。


 相手の頼み方が下手くそなのがいけないんだ。いきなり書類を出す前に一旦席にでも来て「だいぶ時間が経って申し訳ないんですけど、この件の最終回答を品証で出さないといけないので、その後の状況を教えてもらえないか」みたいに言ってくれれば、その場で説明しながらお互いにとって有効で納得のいく回答を検討して「じゃあこれで行きましょう」ってできた。私は相手の鏡だから、相手が下手に出てくれれば私も下手に出るし、相手がマウント取ろうとするなら私も取り返そうとしてしまう。相談した後で回答依頼の書類を出してくれれば、単にその回答を出して終わりになったはずだ。
 「そちらの事情も分かるが、こちらにはこういう事情があるので協力してほしい」という話の持って行き方にすればいいのに、「お前らが悪い。何とかしろ」と話を突きつけてしまったら、内容は全く同じでも感情的な反発を生んで上手く行かなくなる。
※以前、頼み方には技術があって、感情と筋論、最低限どちらか、できれば両方を満たさないと頼みごとは成立しない、って話を書いたことがあって↓、基本的にその認識。
ものを頼む技術 - やしお


 でもこれは、あんまりにも自己嫌悪に耐えられないから単に相手に罪をなすりつけているだけで、一種の自己防衛反応でしかない。自分が一番いけないと思うことを自分がしたことは見つめられないから、相手が悪いんだと思い込もうとする。そういう働きだ。
 相手の頼み方が上手くないな、とは冷静になった今でも思うけど、それは自分が「相手の感情を逆撫でにしないこと」「相手を追い詰めないこと」を基本的に気にしているから、逆に自分がそこを踏みにじられた時に(ちゃんとやれ!)という気持ちが出てしまうだけのことだ。そこを気にしない人というのはいて、「別に仕事なんだからやってほしいことを単に『やれ』って言えばいいでしょ」って方針の人からすれば、そもそもこの反発そのものが意味不明なのだろうと思う。


 その後、文案に対して「やっぱりこれはおかしい。工程改善すべき」というレスが来て、(はあ? 書き直し案でいいって合意しただろ!!)とまたムッとしてしまった。こっちは譲歩したのにまだ付け込むの、みたいな気持ちだった。でもこれじゃあ「品質問題の改善」なんてどっか行って、もう体面のゲームになってる。しかもそれを自分が勝手にやってる。そんなことのために生きてるんじゃない。
 ムッとしたけど、ここで喧嘩するのは良くない……また同じことの繰り返しになる……と一旦冷静になって(どうリアクションしたものか……)としばらく経った後で急になんか(もうどうでもいい)みたいな気持ちに襲われて
「具体的にはどのような内容を想定されていますか?」
とだけ書いて、突き放した返事をその日の帰りがけに出してしまった。帰宅中も帰宅してからも心が晴れない。


 翌朝になって品証の担当からは「具体的な工程を理解していないが、例えばこのようなやり方があり得るのでは」というメールが来て、その直後に電話もかかってきた。ただその時、打合せの直前で時間がなくて急いでいたこともあって、
「まだメールは詳しく読めていない。ただ改めて外注先で実際の現場を見ながら話をした方が早いから、自分だけでなくあなたも一緒に訪問して外注先の技術担当も交えてアイデアを出して決めたい、1ヶ月前は『工程改善は難しい』という回答でそのまま鵜呑みにした面もあったが検討の余地はあるのかもしれない、訪問のリクエストを連休明けに先方とつける。その後でその内容を反映させた回答に差し替える」
といった内容をわーっと話して「それでいかがですか」と聞いたら「すみません。ありがとうございます」と言ってもらえて、決着がついたのだった。
 時間がなくて体面のゲームをやる余裕がなかったおかげで、結果的には「本当はこうするのがいいんだろうな」と思うことを素直に言えて、しかも相手に言わせるんじゃなくて自分で言ったって形にできたから、良かった。相手からしたら「昨日まであんなゴネてたのにどうしたんだ」って思われているだろう。そういう揶揄を入れずに相手側が「すいません。ありがとう」と言ってもらえたおかげでこれ以上こじれずに(私の感情が)済んだのだから、相手にも感謝すべきだと思う。


 10年も仕事をしていると、こんな話はたまにある。でも本当に、起きないようにしたい。こんなことで心を乱したくない。
 初手で(ムッッ!!)として「マウントを取られた」と感じた時が要注意だ。「この人はもともと感情面のケアは気にしないタイプかもしれない」「張り合わない方が結局は勝ちなんだ」「無理に張り合うと筋論のボロが出る」と思い直さないといけない。
 少数だけど自分を棚に上げてすぐマウンティングしかけてくる人も会社にいる。「ここができてないお前はダメ」となるべく大勢いるところでわざと言う人がいる。そんな風に他人を貶めないと安心できないのかあなたは、と本当に軽蔑するけど、そういう相手にのしかかられても「ギャフンと言わせたい」突発的な欲求を上手くいなせるようにしていきたい。
 とりあえず一旦無視する、時間を置く、自分の感情の構造を把握する、といったプロセスで冷静になるしかないかなと今のところは思って、少しずつ上手にやれるようになりたい。という告解。