やしお

ふつうの会社員の日記です。

小川剛生『兼好法師』

https://bookmeter.com/reviews/80135455

歴史上の人物の定説が時々変わることがあるけれど、それは必ずしも直接的な新資料が登場して変わるわけではなくて、当時の背景(社会体制、統治形態、価値観など)をより正確に把握した上で「この資料をどう解釈するのか」という妥当性がより高い説が提示されて、多くの学者がそれを承認して自分の研究にも採用していくことで、だんだん定説になっていくんだなと思った。


 本書は単純に「兼好の生涯の歩みを断定的に紹介する」「物語として提示する」ものではなくて、従来の説がどういう過程で生まれてきて、でもそれは例えば当時の人事制度から考えるとあり得ない、慣習から考えてあり得ない、それは「よくわからないこと」を現代の価値観や慣習を投影させただけの解釈でしかなかった、ということをはっきりさせて否定した上で、現状でこう解釈するのが最も妥当性が高い、という説を提示していく、そんな歴史学の研究プロセスを見せるような本だった。