やしお

ふつうの会社員の日記です。

兵藤裕己『後醍醐天皇』

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徳川吉宗もそうだけど、本来就任するはずのなかった人が偶然の重なりで就任すると、危機感やしがらみの無さから大きな変化を起こすというパターンがあるんだろうか。後醍醐天皇網野善彦の『異形の王権』のイメージや影響が大きくて、本書はそれを丁寧に修正している。後年に水戸の『大日本史』で後醍醐の南朝が正統とされて定着するのが、家康の正統性の担保との兼ね合いで成り立っていて、さらに幕末に水戸学が革命思想のイデオロギーになっていく経緯も実証的で面白かった。


 網野善彦が「異例で異形」と指摘していた、後醍醐天皇密教への傾倒も父の法皇から受け継いだものであったり、打倒幕府の儀式を描いた服装の肖像画もむしろ聖徳太子肖像画を踏まえたものだったりを、資料を駆使しながら指摘していく。後醍醐天皇に重用された文観も、従来の「妖僧」のイメージも、『太平記』の成立過程や成立時期からどういうバイアスがかかっていたのか丁寧に見て、そうじゃないのだと指摘される。

後醍醐天皇 (岩波新書)

後醍醐天皇 (岩波新書)