やしお

ふつうの会社員の日記です。

岩田健太郎『「感染症パニック」を防げ!』

https://bookmeter.com/reviews/90529582

国谷裕子が『キャスターという仕事』の中で、テレビというメディアが視聴者の感情を一体化するように働き、さらに強化する特質があると指摘していた。国谷氏がキャスターとしてその特質に抗うように仕事をしていた姿勢は、岩田医師が本書で示した感染症専門家の医師としてのマスメディアとの距離の取り方と通底している。事実であるかどうかより耳目を集めやすいものを求めがちなマスメディアに対して、専門家の側が疲弊しないように、都合良く使われないようにする技術が実体験として書かれている。

 アメリカのリスクコミュニケーションはエビデンス依存主義的であるという指摘が本書でされている。2001年の炭疽菌を入れた郵便物によるバイオテロの際に、CDCが「郵便局員炭疽菌に感染することはないから通常通り業務をしてよい」と繰り返しメッセージを発出したが、結果として郵便局員に発症者・死亡者が発生した。「事象として現時点で報告されていないこと」をそのまま「起きないこと」に直結させてしまう傾向があるという。著者は「現時点で感染リスクはほとんどないが、念の為マスクはしておこう」というダブルメッセージを流した方が良かっただろうと指摘する。そうした傾向は2009年の新型インフルエンザでも見られたという。現在の新型コロナウイルスにてWHOその他が当初「マスクは意味がないからしなくていい」というメッセージを繰り返し発出し、その後結果的には「した方が良い」と修正したことも、この指摘の文脈で捉えられるのかもしれない。(ただ特に必要な医療従事者に届かなくなるのを抑制するためという事情もあったかもしれない。)