やしお

ふつうの会社員の日記です。

立川吉笑『現在落語論』

https://bookmeter.com/reviews/90594901

落語が伝統性と大衆性に引き裂かれるという話は、例えば小説が純文学とエンタメに二分されるのと同じで、恐らくジャンルやメディアに関係なく芸術一般が過去の成果に対してより微細な差異を追求して高度化していくと「玄人にしか分からない(前提知識がないと楽しめない)」が出てしまう。落語では記録媒体によるアーカイブ化がその蓄積に寄与してきたという。


 30歳前後で、一旦自分の仕事を自分なりに整理・体系化する作業は(しかもそれを自分だけにではなく他者に向けてするのは)この先に進んで自分をアップデートしていくためには不可欠な営みで、本書は立川吉笑にとってそういう書物になっている。
 どうして自分は落語を選ぶのか、という問いは、落語という形式の特質は何かを明らかにする作業だから、なぜ着物を着るのか、なぜ座って演じるのか、なぜ江戸や明治を舞台にした噺をするのか、といった落語の「当たり前」に一つ一つ(暫定的な)回答を与えていくことになる。そうした前提を疑い直す作業を見るのは楽しい。

現在落語論

現在落語論