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外務省で国際儀礼(プロトコール)を担当していた人の本。単に「マナーを守って悪印象を与えない」だけでなく、国際機構では国の大小に関わらず一国一票なので、国公賓の接遇で外国要人に自国の好印象を与えることが、そうした場で自国有利に進める遠因になっていたり、国際会議を円滑に進める効果があったりする。基本ルールは存在していても、お互いが違和感や不快感を覚えなければ柔軟に運用される余地がかなりあって、「マナーに固執することが正義」な世界ではないこともよく分かる。
傑出した経歴の持ち主や家系の出身者は、一種の「マナー・フリー」が特権として許される、という話が面白かった。キャロライン・ケネディ駐日大使(当時)が不適切と思われるカジュアルな服装を公的な場でしていたり、チャールズ皇太子がポケットに手を突っ込んだまま応対したりといった、通常のマナーの文脈では許されない振る舞いをする。ジョンソン首相の髪型がボサボサなのも同じような理由からかもしれない。「マナーをそもそも気にしなくても許される立場の人々」という考え方。
そういえばさかなクンが、09年に天皇(現上皇)も出席した魚類学会でハコフグ帽を着帽したままで、20年に国会で水産資源管理について参考人招致された際も議院規則上は不可だった着帽が認められていた。これもこうした文脈のひとつなのかもしれない。
ちなみに本書が文春新書で出たのは、元外交官・作家の佐藤優の推薦があったという。87年のベネチアサミットの時に、新人外交官だった佐藤優をベネチアのレストランでご馳走したことを未だに感謝されているという。
プロトコールとは何か 世界に通用する公式マナー (文春新書)
- 作者:寺西 千代子
- 発売日: 2016/11/18
- メディア: 新書