やしお

ふつうの会社員の日記です。

鈴木智彦『ヤクザと原発』

https://bookmeter.com/reviews/81534892

原発事故にヤクザが群がったわけではなくて、原発を建てる時にヤクザが入って電力会社や役人側と地元側の利害調整をしてしっかり金を引き出してくるという構造がもともとあって、その流れで事故後の作業員集めなどにも関わっていたという。著者は暴力団取材のライターだったがその流れで原発事故の作業員となって潜入取材をしている。取材内容そのものも面白いけど、著者がライターとしての仕事や収入や生活や家族との関係も書いていてそこも切実に書かれているのが面白かった。

高槻泰郎『大阪堂島米市場』

https://bookmeter.com/reviews/81534861

米(石高)によって財産の多寡を表示するシステム、という世界がまずすごいけど、そのため米を金に変えるための市場が発達するし、市場ができれば金融取引も発達するし、バーチャルな市場や取引も出現するし、金融監督官庁(幕府)による制約もできるし、市場の信用を担保する技術も発達して、現在の証券取引のルールとも似通ってくる。「米」という現物の持つ制約に引っ張られている面もあって、取引は5~8月になると無休になりが特に梅雨・台風シーズンの6、7月は夜通し続く、とかも面白い。


 本書で書かれている内容をきちんと理解しようとすると、現在の証券取引の制度やルールの知識を一通りもって、そこと似ている点・異なる点の比較をしないとちょっとわからない。ゲームのルールをきちんと把握しようとすると、結局はゲームを体験してみるのが手っ取り早いということで、調べてみたらやっぱり(実際に株取引とかしなくても)そういうゲームアプリがあるのでやってみるのがいいのかもしれない。


 明治時点での商慣習でも、現金での決算が中心の江戸に対して、手形での決済中心の大阪、という違いが見られたとか、5~8月は休日も休まずに取引が続けられ、梅雨や台風シーズンの6~7月は夜通し取引が続く、6、7月以外は取引終了時刻が決まっているが、やめないので役人が水をぶっかける。ずぶ濡れになりながら専門の取引用語を怒鳴りあってひしめき合っている集団、という異様な光景になっている、とかいう話も色々面白かった。

笠原嘉『アパシー・シンドローム』

https://bookmeter.com/reviews/80135282

本書の途中で、子供にとっての他者は親とか教師とか友人とか具体的な他人であって、「世間にとってどうか」「人間としてどうか」といった抽象的な他者を想定して行動するわけじゃない、そうした具体的な誰かを超越した「他者一般」に出会うのが青年期だ、という指摘があって、高校生や大学生がバイト先でふざけてSNSで投稿して炎上しちゃうのも、友人の反応しか想定してなくて世間の反応がすっぽり抜け落ちてるのもこれか、と思った。


 学生の無気力症はアメリカが40年代、日本が60年代で20年遅れて健在化したとか、男女の発達の違いで身体の外形と内側からの変化が早い段階で否応なく生じる女性はそれに身を委ねるしかないことで青年期に生じる適応の仕方とか不適応の症状にも差が生じてくるとか、青年期に大人の真似という実験してみているので大人っぽく見える人でも真似でしかなかったりするとか、見方のヒントが色々詰まってる本だった。

アパシー・シンドローム (岩波現代文庫)

アパシー・シンドローム (岩波現代文庫)