2年くらい前に読み終わったけど感想を書いてなかった本もある。読んだ順。
恩田剛『逮捕勾留プラクティス』
https://bookmeter.com/reviews/136364896
逮捕は、国家が被疑者の人権を大きく制約する行為なので、憲法で「何人も(略)令状によらなければ、逮捕されない」とされるが、例外的に現行犯逮捕は逮捕状なしに逮捕できる。では「どこまでが現行犯か?」という線引きが、過去の判例などの積み上げであって、こういうボーダーラインの話は面白い。「犯罪と犯人の明白性」「犯罪の現行性・時間的接着性」が必要とされ、それぞれに認められる/られない具体的な線があるが、ただ実務的なラインではあって、本来どうあるべきかはまた別の線引があるのかもしれない。
木谷明『「無罪」を見抜く』
https://bookmeter.com/reviews/132991534
裁判官として無罪判決を30件以上確定させた木谷明のオーラルヒストリー。やはり裁判官としてのキャリアや考え方、裁判所に対する内実の話がメインだが、囲碁棋士・木谷實の息子として木谷道場で過ごした子供時代の話も、裁判官を退官して公証人になった話、それから法科大学院教授になり弁護士になっていく話も面白い。「疑わしきは罰せず」の原則に立って判断するタイプは、裁判官全体の1割もいない程度という木谷明の実感は、暗い気持ちになるが、最高裁に人事権を握られてキャリアを歩む中で心理的に難しいのかもしれない。
ひろゆき『論破力』
https://bookmeter.com/reviews/136365365
好き好んで相手を言い負かして軋轢を産む人は、一体どういう内在的なロジックや感情でやっているのかと気になっていたが、その一端を知られる本。子供の頃から他人の粗探し、弱点を見つけて突くのが楽しかった、友人と悪口を言い合って怒らせたら勝ちのゲームをしていたという。共感性の欠けた人が子供の頃から磨いてきた「相手を怒らせる」「第三者に自分が勝ったと思わせる」技術が多数披瀝されるが、直接使用するというより、そのタイプの人に巻き込まれた時に「ああ、そういう技術ね」と精神衛生を損なわないために知っておくと良いのだろう。
高倉千春『人事変革ストーリー』
https://bookmeter.com/reviews/136362450
人事制度の構造や歴史的トレンド、国別の比較などが体系的に語られるのを勝手に期待していたが、著者が過去に取り組んだ実績の報告がメインの本。1983年に中央省庁に入庁した女性が、米国でMBA取得→日本のシンクタンク→外資系コンサル→外資系企業の人事→日本企業の人事部長→取締役→複数社の社外取締役とキャリアアップしてきた実例としても興味深い。専門家が専門領域を「私」が消えるほど客観的に書いた上で、そこに「私の体験」がリンクされるような新書を自分は読みたいんだなと改めて思った。
鶴見俊輔『柳宗悦』
https://bookmeter.com/reviews/136361669
日本民芸運動の始祖が、一貫して日韓併合に反対したのは一見ナショナリズムと相反するが、まず朝鮮の陶器への関心からスタートし、権力欲や作家性から離れた日常の用に価値を見出す思想だから、むしろ自然なことだった。客観的・構築的な哲学を論じた思想家・文化人の方が、日本の帝国主義や侵略戦争を是認するように論理を構築したという対比が描かれる。柳宗悦は同じ精神で沖縄方言絶滅論者にも反対する。本書の解説者は柳宗悦より、著者の鶴見俊輔がなぜ柳宗悦を選んで、どう捉えたかを語ってくれていてとても良かった。
例えば柳宗悦の『民藝とは何か』を読むと、その良し悪しを判別できるものは何? という感覚になるが、晩年近くになって、仏教的な基盤も参照しつつ、美醜が固定的・断定的なものではなく、文脈にもよってグラデーションで決まってくるものとして捉え直して、民藝運動をリスタートさせようとしていた姿も描かれている。
白蔵盈太『一遍踊って死んでみな』
https://bookmeter.com/reviews/132991742
一遍をアーティストとして捉えて、音楽雑誌のインタビューやレビューのような文体で第三者が同時代で記述するというアイデアを具現化して楽しいお話だった。途中で鎌倉新仏教の全体像の説明もありお勉強にもなるという。一遍は教義も組織も体系化したいわけではなく、ひたすら実践をしたいはずなのに、人が求める一遍になろうとして苦しんだ後、改めて全てを捨てるのも宗教家・アーティストあるあるっぽい。主人公が一遍を理解し過ぎて、むしろアンビヴァレントな感情を抱いていそうな他阿の方が視点人物として生々しくダイナミックかもしれない。
堂場瞬一『刑事の枷』
https://bookmeter.com/reviews/132963547
「若手刑事を視点人物にした、ベテラン一匹狼刑事の凄さを引き立てるバディもの」のように始まるが、そうはならないのが面白い。むしろ若手の変化自体が主題で、それも急成長するというより、自分で自分にリミットをかけていたのが、ベテランに振り回されるうちに自然と外れて、本来の能力を発揮できるようになったといった雰囲気で、「有望な人ってこういう感じ」の自然さがあった。舞台が川崎周辺で、私が川崎市在住なので知ったところがたくさん出てきたのも楽しめた。ラゾーナのエッグスンシングスでヤクザの幹部と会ってて笑った。
登場人物が男性は姓、女性は名で書かれ、女性のセリフは「~だわ」「~かしら」などと書かれるのは、記号化してリーダビリティを上げているのかなと思うものの、「その人物が女性か男性かを読者は気にするはずだし、作中人物の識別の大きなファクターになっている」と思うことが俗情なのかもとも思う。
末廣徳司『装いの影響力』
https://bookmeter.com/reviews/132963572
著者はスーツを主とした男性向けのトータルコーディネーターで、本書は非構築的な自己啓発本といった作り。例えば良い例悪い例を服装の全要素に亘って網羅的に語るとか、大量の実例によって語るとか(諏訪恭一の『ジュエリーの見方』のような)専門家の独特の価値判断にじっくり触れられるような本の方が自分は好きなんだなと改めて思った。キャラクターを確立させる目的であれば見た目(例えばネクタイの色やベストの有無、体型)を一定にする必要があるというのは、子供向けアニメの人物やピン芸人の服がいつも同じなのと同じだ。
片山晃、小松原周『勝つ投資 負けない投資』
https://bookmeter.com/reviews/134711143
五月(片山晃)が25年に公開した、インデックス投資にみんなが資金を注入すると株価は何によって形成されるのか、S&P500の中身が実は全体ではなくMag7に集中していてそこに資金が集中していくサイクルが起こる、といった話がすごく面白くて、同著者の著作を見たいと思って10年前の本を読んでみた。個人投資家の片山晃と、機関投資家の小松原周の、それぞれ価値判断の違いもありながら、根本は「世の中とその会社をちゃんと見る」という当たり前のベースで成り立っている。
清水克行『戦国大名と分国法』
https://bookmeter.com/reviews/136360718
戦国大名が単純に領地を巡って対外的に争っていただけなわけでは当然なく、領国支配を安定させるために法を定めている。なのだが、むしろ分国法を定めた大名は滅び、残していない方が生き残る傾向にあると著者は指摘し、法が存在すると、領地の民衆や家臣を統治するだけでなく、領主自身への縛りにもなり、戦乱期の中で領主の柔軟な対応を阻害するためではないか、と考察されているのが面白かった。5家の分国法の詳細な実例が説明され、法律というより説教に近い内容も含まれているなど楽しい。
荻原博子『最強の相続』
https://bookmeter.com/reviews/134711362
金融資産だけしかなければシンプルなのが、自宅や土地、会社など「分割もできず現金化も容易でない」資産を持ったまま死ぬと複雑化する。子供が一人だけならシンプルなのが、親族関係が複雑だと相続も複雑化する。引き継ぐ「もの」と引き継ぐ「先」が複雑化することで、適用されるルールが素朴な通念から離れて、関係者を混乱させていく。相続の価値観や世界を全く知らなかったので、ちょっと見られて面白かった。事例やエピソードを羅列しただけの非構築的な本を見ると「新書なら整理してくれ」という気持ちにはなる。
弘中惇一郎『特捜検察の正体』
https://bookmeter.com/reviews/136359386
取調べの可視化は、不適切な手法で被疑者の精神を追い詰めて発言を歪曲させるのを防止する手段だったはずが、逮捕前の任意の取調べが録画非対象なのを逆手に取り、そこまでに十分に脅して屈服させてから改めて逮捕し、録画が始まったところであたかも自主的に「やった」と言ったように見せるという「テクニック」の話を聞くと、捜査機関は「真実を明らかにする」ではなく「自分たちが立てたストーリーに沿って決着させる」があくまで目的の組織なのだなと改めて思う。その目的、組織方針を改めない限りどんな対策もいたちごっこになる。
大澤孝征『元検事が明かす「口の割らせ方」』
https://bookmeter.com/reviews/134355468
無理やり(精神的な暴力を加えて)割らせるのではなく、相手の共感を生むことで進んで話させる。「北風と太陽」では「太陽」に該当する手法を本書で詳述する。刑事事件の取調べに限らず、例えばデール・カーネギー『人を動かす』での主張、自分の望みを叶えるには相手の満足を目指すことが近道という原理にも通じる。著者自身は真っ当な取調べをしていたのかもしれないが、それでも「不起訴にする場合でも口を割らせて反省させなければならない」という捜査機関に共通する価値観は当然視されているのだと改めて確認できた。
小島寛之『完全独習 統計学入門』
https://bookmeter.com/reviews/134710530
間違っているかもしれないリスクを一定程度取ることで、「何にも分からない」から「たぶんそう」の状態にデータを使って持っていく統計という営みの入口が見渡せる本。わかりやすいとの評判で、実際すごくわかりやすかった。検定・推定について参考書だと「この場合は正規分布、この場合はカイ二乗分布」と結論だけが書かれて混乱するのが、平均・分散から出発して順番に行くと全体像が見えてありがたい。途中「そう証明されている」ですっ飛ばすところも多いけど、「全体像を把握する」目的を失わないための措置になっている。
石原大史『冤罪の真相 追跡・大川原化工機事件』
https://bookmeter.com/reviews/133776255
「冤罪が晴れて良かった」とはとても言えない。大川原化工機も、同業他社も、専門家も、監督官庁の経産省も、前任の検察官も、さらには公安の警察官たち自身でさえも、「これは犯罪にはあたらない」と考えたにもかかわらず、経営陣を逮捕し、長期間勾留し、起訴まで突き進み、被疑者・被告人に猛烈なダメージを与えた事例だった。捜査を主導した警視庁公安部の問題は当然だとしても、民間企業を守らず警察に迎合してしまった経産省も、やすやすと逮捕・勾留を認めた裁判所も、問題点を理解しながら不起訴にしなかった検察も、大きな罪がある。
春海水亭『僕の妹をさがさないでください』
https://bookmeter.com/reviews/134299366
長篇と連作短編のあいだくらいのホラー小説。ホラーは「理不尽な怪異にやられる」のと、「結局怖いのは人間でした」とがあったとして、本作は「ああそっちね」と思いそうになると「そうじゃない」が出てきて、その行ったり来たりの運動が楽しい。「人間じゃない人間みたいなもの」が、自分は人間じゃないって自意識を抱いて存在した時に、その者の価値観は身体感覚に引きずられて人間とどうズレて来るんだろう、みたいなことを考えてた。
江口大和『取調室のハシビロコウ』
https://bookmeter.com/reviews/134355499
完黙(完全な黙秘)を貫くと受ける扱いが詳らかにされる。取調べでは、パイプ椅子に長時間座らせられ、事件と無関係の罵詈雑言や人格否定にさらされ、トイレに行こうとすれば懇願と謝罪を要求される。有罪判決も受けていない推定無罪の人物に、事情を聞く態度ではあり得ない。任意の取調べで十分に協力してきた被疑者を逮捕し250日も勾留することに、社会生活を破壊し精神的に追い詰め、虚偽自白を導く以外の意図があるのだろうか。「黙秘し調書に署名捺印しない」の防御手段がいかに難しいか、自分なら無理だと感じさせられる恐怖の一冊。
千々和泰明『戦争はいかに終結したか』
https://bookmeter.com/reviews/134710120
戦争は、今発生する損害(デメリット)と将来得られる利得(メリット)を天秤にかけて、主に優勢な側が決定する、そのバランスで「妥協的和平」と「根本的解決」のライン上のどの辺にプロットされるかが決まる、といった図式で、各種の戦争について終結までの流れを具体的に見るという本。もっと強力に図式化してほしい、もう少し規模の小さい戦争・紛争も網羅的にプロットしてほしい、みたいな気持ちにはなったけど、「WW1~イラク戦争まで米国が関わった戦争の概要を知る」目的には良いかもしれない。
鈴木真弥『カーストとは何か』
https://bookmeter.com/reviews/134934827
現代インドでの不可触民(ダリト)差別について、歴史的な経緯やデータといった俯瞰的な情報と、今生きている人達の実相との両面から解説して充実した本。憲法にアファーマティブ・アクション(留保制度)が規定され、政治的に票田として利用され、もちろんそれのみが要因でないにしても、ダリトだと公表を強いられ、上位カーストから逆差別だと反感を買い、差別意識が強化される方向に働く面がある。日本で明治期に賤民廃止令発布後に農民が部落を襲撃し殺害する事件が起きているが、インドでは非常に似たことが2010年代に起きている。
角岡信彦『ふしぎな部落問題』
https://bookmeter.com/reviews/135176201
大阪府北部での3世代ほどに亘る事例は、アファーマティブ・アクションの対象集団側が、依存による逆効果や周囲との軋轢などの欠点が過大になるポイントを見極めて自ら特権を返上し、差別解消やコミュニティ活性化の道を模索していった歴史として非常に面白かった。職業や日常生活で当事者がほとんど差別を意識することがなくなっても、結婚の場面で根強く差別が残ってしまう。インドのカースト差別の本の直後に読んだが、国や文化が違っても差別のあり方は酷似している。本書は特に書下ろしでない章で、もっと整理して記述してほしいと感じた。
古野まほろ『警察捜査の真実』
https://bookmeter.com/reviews/135186373
警察の事件捜査について、端緒(事件の認知)から検察官送致までの、組織的な動き方、個々の動きや心情などがざっくばらんに語られる。フィクションでの描かれ方や世間の認識と、実状の差異についても詳述される。重大事件発生時の捜査本部の立てられ方は、以前に読んだコンサルの働き方にも似ていて、極めて非定形的な事象を解明する場合、同じような組織の動き方になるのかもしれない。編集者の質問に答える形式で、話し言葉よりの文体が選択されているが、言い回しの独特さや頻繁な補足の差し込みが読みやすさにどう影響するのか体感できた。
中野香織『ロイヤルスタイル 英国王室ファッション史』
https://bookmeter.com/reviews/135577540
著者の能力というより企画・編集の方針と思うが、タイトルに反し歴史的な変遷を体系的に辿るわけではなく、また服飾にまつわる話自体も少なく、主に現代の英国王室メンバーのエピソードを羅列したような構成で、定性的・情緒的な断定が多く、王室ファンによるエッセイという趣の本だった。主にフォーマルウェアが制定され変遷していく過程での英王室が果たした役割を知りたくて手に取ったが、そうした話も多少はあって面白かったが、主に人品にまつわる話のボリュームの方が多く、「ファッション史」の密度が低かった。
坂野潤治『近代日本の国家構想』
https://bookmeter.com/reviews/135577575
廃藩置県後(1871年)から二・二六事件前(1936年)までの政治史。結果として国家体制がこうなった、という直線的な経緯ではなく、その当時、どのようなイデオロギーの衝突がどのプレイヤー(個人・派閥)間で生じて、どういう現実的な制約などによって妥協が図られたり排除されたりしたのかという過程を見せてくれる。明治維新の革命過程はよくドラマにもなるが、中央集権化が一段落した後、革命目的だった富国/強兵/公儀輿論のそれぞれを重視する勢力が拮抗して敗れていく過程をつぶさに見られるのは面白い。
山口達輝、松田洋之『機械学習&ディープラーニングのしくみと技術がこれ1冊でしっかりわかる教科書』
https://bookmeter.com/reviews/135998740
素人にどういう順番でどの粒度で説明すれば全体像が伝わるのか、まじめに考えて作られていて、良い本だなと感じた。2019年出版で、生成AIの爆発的普及(ChatGPT公開が2022年11月)の前、2010年代前半で音声UI(SiriやAlexa)が登場した後という時期の、機械学習の全体感が眺められるという意味でも面白かった。急にかしこくなったり何もわからなくなったりする概念としてのロボのイラストがかわいかったけど、後半から全然登場しなくなって悲しい。
藤原裕『教養としてのデニム』
https://bookmeter.com/reviews/135998829
デニムの経年変化(ダメージ)の種類をハチノス、タテ落ち、ヒゲと名付けたり、年代による細かなディテールの差異にも名称を付けて区別したり、あるいはわざと新品でダメージを再現したりするのは、茶器とか盆栽とかと同じだなと思っていたら、途中で「詫び錆び」と出てきて笑ってしまった。ヴィンテージ市場は日本で形成されたのも、ベースでそういう文化があるからだろうか。デニムの衣服はひとつも持っていないけれど、知らない世界の話を教えてもらえると楽しい。
藤紘『佐藤の告白』
https://bookmeter.com/reviews/136164544
男子生徒同士の告白をアウティングされた中学生の周囲の、生徒や教師や親と視点を変えながらそれぞれの事情や内面が浮かび上がる小説。背景やエピソードのディテールの積み重ねが丁寧で面白かった。散々こすられるフリーザーバックも笑った。BLとして消費されることへの拒否が作中で描かれていながら、本作がBL的な雰囲気をまとうのは、性的欲望や見栄、嫉妬、それらによる醜悪な行動が捨象されて、作中人物に好感を抱きやすいこの綺麗さにあるとしても、それは本作の瑕疵ではない。
沖浦和光『天皇の国・賤民の国』
https://bookmeter.com/reviews/136236553
男系男子の維持での皇室典範改正が話題のタイミングで、明治に「万世一系の皇統」というフィクションを国民に刷り込んだ経緯や背景を改めて眺めると、現代にこれをやる意味を国粋主義者は理解していないんだろうなとやっぱり思う。日本人起源論や天皇のルーツ・流入経路の話は、現代の標準的な学説がどうなのかを知りたいと思った。非差別民の誕生が天皇の誕生と裏腹がそうでも、天皇の残った日本より、王のいないインドでダリト差別が根強く残ったことを思うと、残存するかは経済構造のファクターが強いのかもしれない。
酒井美意子『元華族たちの戦後史』
https://bookmeter.com/reviews/136358832
「元華族」と一括りに言っても、江戸時代に財政的には窮乏した公家、家臣団がいた大名家、維新以降で政治的・経済的・軍事的に成功した新華族とおよそ3グループいて、それぞれ背景が違うと言われるとなるほどと思った。敗戦時に財産没収・華族制度廃止で没落したりしなかったりはその個人の能力によるが、旧大名家が旧家臣に助けられたり、「戦国時代の先祖も負けて這い上がったのだし」というガッツで乗り切ったりするのは面白い。著者が社交クラブを作ったり、マナー評論家になったりして戦後を生き抜いた話もバイタリティもりもりで楽しい。
戦後、著者酒井美意子の実母、前田菊子が、正力松太郎に請われてマナー評論家になる経緯が書かれる。今まで日本人は戦争、敗戦でマナーどころではなかったが、これからはマナーも知らない山猿のままでいるわけにはいかない、と説得されたという。よく悪者扱いされ、「失礼クリエイター」と揶揄されることも多いマナー講師だが、戦後に誕生したばかりの第一世代である前田菊子は、「戦前はこうしていた」「アメリカではこうしている」「ただ今の日本に照らし合わせて考え直すと、こうするのが良いだろう」と柔軟に対応していたらしい。

























































