市川寛『ナリ検』
https://bookmeter.com/reviews/132020002
検事をやめて弁護士になった著者の自伝『検事失格』と併せて読むと、この創作は一種の「救い」に見える。小規模地検を舞台に、非常に「優秀」で検察の意思や価値観、「正義」を正確に内面化した三席検事・平戸と、元弁護士で検察のやり方に強い違和感を持った視点人物の次席検事・牧原の対立が、最終的にはどちらの立場にも全面的に寄らずに調和される。「こうであってほしい」という著者の願いが込められているようなお話。検事、検察事務官など検察実務がリアルに描出されて面白い。
久保正行『警察官という生き方』
https://bookmeter.com/reviews/129626864
著者はノンキャリとして最高の階級である警視長まで昇進し、キャリアの多くを刑事畑、警視長刑事部捜査第一課で過ごした人物で、刑事事件捜査やマスコミ対策などの警察官の仕事について本書で説明してくれる。例えば管理官という職責がどういう働きをしているのかなども知られて面白かった。ところで「第62代警視庁捜査第一課長」と役職名に代目をわざわざ付けるのは、私企業に勤めている感覚からはあまりに隔絶していて(異常としか思えず)興味深い。階級社会かつ地位へのプライドが垣間見える。
仲道祐樹『刑法的思考のすすめ』
https://bookmeter.com/reviews/132166428
素朴な処罰感情や善悪の倫理観から、罪の認定や量刑に納得できずに、(いつもなぜか検察官にではなく)裁判官を糾弾する光景をSNSでたびたび目にする。本書ではそうした素朴な感情から出発して、それだとどこで他の要素と衝突を起こしたり、不都合が生じたりするのか、そして刑法的な考え方だとそれをどのように処理しているのかを順を追って辿っていく。実は完全な正解には辿り着かずに、国によってもバラつきがある、バランスの中で成り立っている面がとても多いことに、その過程で気付くことができる。
冲方丁『冲方丁のこち留』
https://bookmeter.com/reviews/129620388
本書を読むまで、「冲方丁が以前逮捕された」と漠然と覚えていても、それが冤罪・無罪だったとは全く知らなかった。やはり逮捕の事実だけを大々的に報道して、その後のフォローをしない報道はアンフェアだと感じた。ただそれは報道だけが悪いというより、そのセンセーショナルな点だけを消費したい俗情との結託の問題だ。本書は、当時の渋谷署の留置場の様子や、検察官送致などの様子も細かく記載されて貴重な記録となっている。あまりにも不必要・不合理な身体拘束が続く異常な世界だ。
西愛礼『冤罪』
https://bookmeter.com/reviews/129628893
どんなシステムであっても「人は間違える」を前提として、フールプルーフやフェイルセーフなどの対策が施されるべきだが、日本の刑事事件を処理するシステムでは、捜査機関によって事件が認知されてから、最終的に有罪判決を受けるまでの全体のプロセスの中で、こうした対策が非常に薄いという実態が本書によってよく分かる。冤罪は極めて特殊な事例と世間的には思われていても、実はもっと気軽に発生していて、ただ冤罪被害者もダメージコントロールのため大事にせず暗数になっているだけなのだろうと、実例を知れば知るほど感じる。
村木厚子『私は負けない』
https://bookmeter.com/reviews/129643695
同著者の『日本型組織の病を考える』と内容的に被るが、本書は冤罪の作られ方や、拘置所での生活など郵便不正事件により特化している。とりわけ貴重なのが、証明書を偽造した元係長のインタビューが収録されている点。元係長が上司である村木氏(当時課長)の関与を供述したことで、村木氏は冤罪事件に巻き込まれる。なぜ虚偽の供述をしてしまうのか、全く身に覚えのない人が冤罪と戦うより、スネに傷を持つ人の方が捜査機関の強引な見立てに抗うのが難しい心理状況が本書には詳細に記録されている点で貴重だ。
メン獄『コンサルティング会社完全サバイバルマニュアル』
https://bookmeter.com/reviews/129627446
私は製造業に勤めていて、コンサル業がどんな風に働いていているのかはまるで知らない世界で興味深かった。例えば製造業でも新製品などプロジェクト単位で各課から人を出し合っても、あくまでメンバーは所属の課の役割(専門領域)を担うが、コンサルは極めて非定型的なのでプロジェクトで集められた人達には職責はあっても「元の役割」がない。以前、広告代理店の業務に関する本を読んだ際に、仕事の質の上限やラインがないので質の追求のため際限なく労働時間が増える構造が見られたが、コンサル業もそれに近しいものがあるようだ。
市川寛『検事失格』
https://bookmeter.com/reviews/129666146
読んでいると胃が痛くなりそうな実体験。検事として当初は人権に配慮した「正しい」仕事をしたいと望んでいた著者が、組織(検察庁)の強いプレッシャーに長年さらされた末に、取調べで被疑者を大声で恫喝するという、人権侵害そのものの行為に至る。民間企業のように倒産することもなく、取って代わられることもない組織はガバナンスが効き辛いとしても、ほとんどカルトのようなマインドコントロールを強いる。著者は自分自身を許されないと認識できたおかげで、本書に貴重な記録を残すことができたが、順応してしまう検事も大勢いるのだろう。
R・ミルン、R・ブル『取調べの心理学』
https://bookmeter.com/reviews/131334904
人間の記憶は壊れやすく、それを壊さないように、変質させないように取調べによって上手く取り出すにはどうしたら良いのかという技術について書かれている。この逆が、記憶を改竄してこちらの望む言動をさせるマインドコントロールで、取調べにおいては「自白させることがゴール」と捉えてしまうと、取調官自身も無自覚なままこれが生じて冤罪を生み出す素地になってしまう。各種報道で見聞きする限り、日本の捜査機関ではまだ自白偏重の取調べが多いように見える。
山岸忍『負けへんで!』
https://bookmeter.com/reviews/131351872
著者はプレサンスコーポレーションの創業社長として業務上横領で逮捕起訴されたが無罪判決を勝ち取った人。取調べ担当の検事が懐柔的なタイプで、山岸氏は当初、弁護人のアドバイスよりも検察官の意見の方を聞いてしまったと後悔している。強圧的・威迫的なタイプの取調官が問題視される事例が多いが、こうして取り込まれてしまう例が記録されているのは貴重だと思う。ただ山岸氏は検察の事実と違うストーリーを最後まで否定し続けており、その点では迎合していない。
高野隆『人質司法』
https://bookmeter.com/reviews/132166453
弁護団の一人を勤めたゴーン氏について、時系列で日本の刑事司法への不信感を徐々に深めていった様子が詳述されてリアルだった。真実がどうだったかは不明でも、「この国で全力を尽くして戦ったところで、フェアな判断はしてもらえないだろう」と見切りをつけられてしまうのも無理はない状況だったと感じられる。立法過程や他国の実状を交えて、日本での刑事司法の現状をかなり丁寧に語る本。
フジワラヨシト『コネ、スキル貯金ナシから「好き」を仕事にするまでにやってきたこと』
https://bookmeter.com/reviews/131334656
著者は勤め先をやむなく辞めて、背水の陣でイラストレーターとして生計を立てた人。「SNSの運用を通じて仕事を受注する」には、「何をしている/何ができる人なのか」を分かりやすくする必要がある。そのために、作風の一貫性、作品の一覧性、仕事の連絡先の表示などがあって、それは旧来の営業とは違う「型」の構築で、イラストレーターに限らずフリーランス全般にとっても応用の効く型なのだろうと思う。大学中退後、全国を転々として似顔絵描きをしていたエピソードがなかなかすごい。
畑村洋太郎『失敗学のすすめ』
https://bookmeter.com/reviews/132166489
黎明期・発展期は、試行錯誤や失敗を繰り返しながらやり方が確立されていく。それを経験した人達はノウハウが溜まるし柔軟な対応ができる。一方で成熟期には確立されたやり方の護持が主になり、その時代の人たちは例えベテランになっても対応力が足りない。そんな話はあらゆる分野でのあるあるだと思った。出てくる事例がちょうど子供の頃にテレビで連日見てたなと懐かしくなった。組織をガラガラポンするのは、非効率なようで、効率化の中でなあなあにやってる部分を見直す意味では利点があるのかもしれない、と読みながらふと思った。
藤沢周平『義民が駆ける』
https://bookmeter.com/reviews/129643398
読み始めて、国政の為政者(幕閣)、地方領主(藩主・重臣)、農民の3者視点で上下軸から描くのかと思いきや、藩への帰属意識が薄い地域の住民とか、学者とかどんどん視点人物が増えていく。キャラを立てて感情的な関係性を描いたり、伏線をしっかり回収したりといった現在の物語の作り方で重視されそうなポイントが薄くてかえって新鮮な感じがする。主役は人物ではなく「三方国替え」で、各プレイヤーの都合や利害で幕命の撤回という前代未聞の顛末へ至る様を描くのが主眼な以上、この書かれ方が適切だろう。読むとやはりわくわくするし面白い。
飯田一史『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか』
https://bookmeter.com/reviews/128347657
すごい力作。個別の町の本屋の盛衰ではなく、出版業界のいびつな構造がどのように成立してきたのか、その歴史的背景を実証的にまとめている。読み辛いが、この資料的価値の高さの前でそんなことはどうでもいいことかもしれない。消費者の利便性を阻害する形で、目先の既得権を死守しようとする振る舞いは、その瞬間は機能しても、必ず将来的には手痛いしっぺ返しになって破綻する、という教訓を教訓とせずに積み重ねてきてきていることがよく分かる。結局、その轍を踏まずに小売の夢見てきた理想を体現したのがAmazonだったという。
書籍が商品として自立しておらず、雑誌や外商、文具、レンタルCD、カフェなどとのバーターによってかろうじて商材として成り立っている。それはやはり健全な姿ではないのだろう。
海外の事例で、耐久性の高い装丁の高価な本は図書館向け、ペーパーバックは一般向けと分けて製造されるという話は、なるほどと思った。四六判と文庫をいずれも一般向けに販売しているのは奇妙といえば奇妙ではある。
野田聖子、辻元清美『女性議員は「変な女」なのか』
https://bookmeter.com/reviews/128543199
野田聖子と辻元清美という国政のベテラン政治家が仲が良いということも知らなかった。二人の対談で、目の覚めるような認識が示されるとか、深い議論が展開されるわけではないが、政治家という特殊な職業を選択した女性、人生を生きている普通の人間としての実状をとても率直に語り合っている。自民党で造反4回、公認取り消しもあり、選択的夫婦別姓制の賛成派という異端のポジションにいる野田聖子の、党に頼らないこの中選挙区的なマインドは党に依存しなくても選挙に勝てる地盤の固さにあるのだろう。
野田聖子が国会議員になった直後に、中曽根康弘から「総理を目指すようでないと、学ばなくなるからダメだ」と言われたエピソードを見て、つい最近、伊勢ヶ濱部屋YouTubeチャンネルで前伊勢ヶ濱親方(旭富士)が「力士である以上、横綱を目指してやらないとダメ」といったことを言っていたのを思い出して同じだなと思った。確かに上を目指すことで技能や技術が引き上がっていくというのはある。
根本知『10の法則で読むくずし字入門』
https://bookmeter.com/reviews/128741774
読んでいると例えば斉藤と齋藤を間違えると失礼みたいな感覚が霧消していく。漢字の偏と旁の位置関係も固定的ではないし、仮名は現在の平仮名の字形よりさらに簡略化された先もあれば、元の漢字に近い形も、みな「同じ字」として認識されている。英語の発音がリエゾンによって単語間の境界が曖昧になったり、hやtの音が省略されたり、thがfに転じたりして、リラックスした会話や特定の地域の発音ではそれらが激しく生じてほとんど聞き取りが困難になるが、よくその音の動きを見つめると、元の言葉や発音の名残があるのと似ていると思った。
大津広一『ビジネススクールで身につける会計×戦略思考』
https://bookmeter.com/reviews/129614988
まず読み物として面白い。現実の同業種の別会社を決算資料で比較し、会社の戦略の違いが「どこにお金がかかっているのか」の違いとなって現れてくる様子をいくつも見せてくれる。分類すれば「財務諸表の読み方の本」だが、単なる定義の説明ではなく、血肉の通った経済活動の一断片としての見方を講義する。エピローグにあるように、本書を読むだけで自力で分析できるようには当然ならない。興味を持って習慣的に決算資料を読むうちに、その会社の姿勢や戦略を類推できるようになっていく。そんなレベルで読めたら楽しいだろうなと思わせてくれる本。
東直子・穂村弘『しびれる短歌』
https://bookmeter.com/reviews/130939285
短歌が、普段見えている世界を異化する営みとして、制約された(しかし俳句ほど制約されていない)音数の中で、言葉の意味や、音や、語順や、文字の組み合わせを駆使していく。その営みが高度になればなるほど、「その一段階前」を知らないと理解が難しい。本書は取り上げた短歌がどういう点で面白いのかを実作者が語るから、素人もその素晴らしさに触れることができる。歌人・個人間の差というより、世代間で何に違和感を見出しているのかの差が主眼になっている。
朝日新聞「志布志事件」取材班『虚罪 ドキュメント志布志事件』
https://bookmeter.com/reviews/131002870
あまりにもむごい。高齢者を含む多数の無実の住人が、警察がでっち上げた選挙違反で逮捕され、最終的に全員無罪判決を勝ち取るが、不可逆的に人生を破壊される。捜査機関による取調べは、一般人からすると「やってないなら否認すればいい」と思えるが、仕事や財産、健康や家族を盾にして、「お前以外は認めている」と嘘を吹き込まれると耐えきるのは非常に難しい。何が犠牲になっても構わない、ただ嘘の供述だけはできない、と割り切りきった人だけが耐えきれても代償があまりにも大きい。
柳宗悦『民藝とは何か』
https://bookmeter.com/reviews/132020053
洗練や作為はダメ、実用を離れた装飾は美しくない、非凡なものを尊ぶのは平凡、作家性でなくギルド的なものが美しいという。その美は直感により感得されるというが、これは「概念を排して見ろ」という要求で、もし「用の美」という概念すら排して見ろ、だとするとものすごく困難なことを要求されている。考え方にちょっとバウハウスみもあるけど、必ずしも装飾性が排除されておらず、用としての装飾は美と判断されている。湯呑や木像など柳宗悦が美としたものの写真とコメントがあってヒントが提示されている。
廉価な大量生産品に美があるとの展開で、「じゃあ百均の皿は美しいのだろうか」と思っていたら途中で、機械工業製品は用のためではなく利のために作られるから安くても良いものにはなり得ない、もし競争がなければ高く売るはずだから安価であっても廉価ではない、という話が出てきて、そういうことではなかった。
そうなるともはや産業資本主義そのものの批判になってきて、現代では両立しなさそう、と思っていたら、ギルドの話が出てきた。
途中で日本民藝館設立の話の中で、アクセスの仕方も書かれていて、タクシーに乗った時に「駒場と駒沢を間違える運転手がいるから注意」とわざわざ書いてあってちょっと面白かった。
高野隆・河津博史『刑事法廷弁護技術 第2版』
https://bookmeter.com/reviews/130939697
「異議あり」はゲームなどでは、弁護人が証人や検察官に向かって矛盾を指摘する決め台詞(?)のイメージが強いが、当たり前だが現実の法廷では全く違う。刑訴法や刑訴規則に反して、相手方が法廷に有害な情報をもたらそうとした時に、裁判長に対して異議を申し立てて阻止する行為で、一瞬で何のルールに反しているか、阻止すべきかを判断するのはかなりの訓練が必要そうだ。このルールは、欧米で長期にわたって構築され、さらに日本でも独自進化したもので、直感的になぜそれが禁じられているのかは分かりづらい。専門性の高い領域だ。
小山竜央『【超完全版】YouTube大全』
https://bookmeter.com/reviews/131002902
結局は出演者と企画が魅力的であることが第一、という話をされると、YouTubeの評価式がしっかりしてるんだなと感心する。一般的に人気チャンネルの指標として登録者数がまず注目されがちだが、内部的な評価ではむしろ、どれほどアクティブに見続けられているかの方が重要だという。本書は楽しくYouTuberになろうという話でも、YouTuberとして稼ごうという話でもなく、マーケティングの一貫としてYouTubeをどう活用するのかという観点での話が展開されている。
髙比良くるま『漫才過剰考察』
https://bookmeter.com/reviews/132099142
大阪弁は音的に短く済む分スピード感の面で漫才に向く一方、ボケの前にフリが不要な点で標準語はボケ単体のパワーが出し易いとか、漫才中のコントは漫才師のキャラが前提にして入る点で、コントの方が不条理な世界を展開できるとかの話は、「のような」を入れる直喩は暗喩より冗長なようで、実は一般的に連想されない要素を強制的に繋げてより無茶ができる話と似てると思って面白かった。そういう整理の仕方、構造化をするのが好きで、かつそれに基づいて現実の方を変えるというのは異常な人だ。
林真理子『着物の悦び』
https://bookmeter.com/reviews/131334257
着物にも、例えばスーツと同じく厳密なコードがある。さらにその中でセンスが要求される。センスの領域は独立して遊離したものではなく、歴史的な経緯や意味を踏まえて美醜の判断がされる。このエッセイは著者が3年ほどで着物を大量に買いまくって、失敗しながらもそうした内在的なロジックを身に着けていった過程を語ったもので、(業界的な慣習については批判しても)この価値観自体はかなり保守的に肯定している。一度ロジックを内面化するとその論理で導かれるものは「正解」としてしか認識しようがなくなるこの感じが味わえるようなエッセイ。
一力遼『AI時代の最善手』
https://bookmeter.com/reviews/131334301
中国や韓国では囲碁がスポーツ、棋士がアスリートの扱いで、対局時間も短く、開始時間も夜遅くに設定され、ファンがエンタメとして楽しめる工夫がされているという話が面白かった。日本は文化や芸事としての側面が強く、それが悪いことではないが、世界的な大会で中韓の後塵を拝する要因になっている。台湾は子供の成長に良いからと塾で習わせる形で普及しているというまた違いがあるのが面白い。一力遼という人の思考そのものを知るというより、あくまで碁を知らない一般読者向けに囲碁の状況を紹介するような本。
ちょうど最近、日本棋院が29年度にも運転資金確保が困難になるというニュースを見た。かつて日本では全人口に対する囲碁の競技人口が10%ほどもあったというのは驚きだが、これだけ興味関心が多様化している時代で維持していくのはどこも厳しい。
世界大会を制した一力遼だが、藤井聡太と比較して世間の知名度がどれほどかを考えると、囲碁のプレゼンスの低さが際立ってしまう。
祥見知生『うつわを愛する』
https://bookmeter.com/reviews/132166526
著者のギャラリーが鎌倉にあり、器を買ったことがある。そこで本を出していることを知って読んでみた。コレクションとしてではなく、本来の用途に供するように、陶器との暮らし方がたくさん書かれている。この用の美を尊ぶ姿勢は、途中で日本民藝館への言及もあるように、柳宗悦精神なのだろう。現代の生活では電子レンジや食洗機を回避できないのだからと、実際に自分で使ってみた結果まで書かれているのを見て、「暮らしで使わなければいけない」の本気度を感じた。
松浦理英子『ヒカリ文集』
https://bookmeter.com/reviews/132038371
例えばメルヴィルのビリー・バッドみたいな愚かさが醸す聖性とは全然違うけど、異様な他者への与え方を示して、みんなが好きになっていくような人物ヒカリを、それぞれ違うタイプの人々がどう惹かれて関係を持ったのか、惹かれた側の視点で描いていく。それでヒカリという人間が像を結ぶかというと皆にとって「結局よくわからない」だとしても、ヒカリが簡単に空虚とかお話の真ん中の穴とかで処理できるようにもなってないし、サークラや寝取られの枠に収まらないところが豊か。
和仁かや『江戸の刑事司法』
https://bookmeter.com/reviews/131832641
江戸時代後期の、刑事事件の量刑判断のロジックやプロセスを実例で解説していて面白い。時代劇などでは奉行や代官の個人的な判断で処理されているイメージだが、特に重罪については慎重な検討が加えられている様子がわかる。「法令・判例との論理的整合性を重視するが、個別具体的な事実関係も見る」「(科学捜査に限界はあっても)供述証拠以外の証拠も集める」「重い事案は評定所→老中と判断を上げて現場のみで判断しない」「評定所も老中の意見に反駁するし、老中がその反論を受け入れることもある」という。
泉二啓太『人生を豊かにするあたらしい着物』
https://bookmeter.com/reviews/131833223
先日、林真理子『着物の悦び』を読んだ際に、着物関連のワードを理解できず、基本的なところを知りたいと思って読んでみた。基本用語、各アイテム、格の差、着方、合わせ方など男女ともに網羅的に書かれていて入門書として良かった。TPOは押さえて適切に着てほしいという気持ちと、いわゆる「着物警察」みたいなことになってハードルを上げるようなことをせずに入口は気軽に楽しんでほしいという気持ちと、著者のバランス感覚が感じられて良かった。「布そのもののシンプルな美しさ」の快楽がある世界なのかもしれない。
































