やしお

ふつうの会社員の日記です。

彦星と織姫のバレンタインデー

 今日ね、通勤電車に乗ってた。座ってたら目の前におじさんが立ったんだ。スーパーのビニール袋を提げて、地味なジャンパーを着たしょぼくれたおじさん。
 それから別の駅で女子高生が乗ってきた。おじさんと女子高生が話し始めたから、
(あれ? しりあいなのかな?)
と思ってたら、おじさんと女子高生が手を握り始めた。
(え、なにこれ、なにこれ)
 ぼくはものすごく興味がすごかったけど、顔を上げて見るわけにもいかないし、iPodレディ・ガガを聞いてるところだったから話の内容もわからない。乗ってきた駅が違うから親子じゃないだろうし、そもそもあの年の親子で手はつながないだろうし、とか、どきどきした。いろいろ考えた。痴漢からはじまった恋、塾の講師と生徒……わかんない。でも、とにかくすごいんだ。
 だって二人はただ手を握ってるわけじゃなくて、にぎにぎしてた。それからお互いの太ももをこっそりつつきあったりしてた。よくある若いカップルみたいに派手にいちゃつくんじゃない。ただ手でいちゃついてるんだ。
(すっごくきになる!)
 でもそのときガガが
「ポ・ポ・ポ・ポーカーフェース。ポポポーカーフェース」って歌ってたからぼくは表情を変えなかった。ああでも、おじさんのしわしわの手と、高校生のすべすべの手が!
 その後、おじさんが先におりてった。
 よくわかんないけど、たぶん今日って恋人たちの特別な日じゃん? だからだと思う。いつもはがまんしなくちゃいけない二人が、おしゃべりだけでがまんしてた二人が、今日だけはとくべつに手をつないだんだと思う。
「オゥ、オ、オゥオゥ、オゥ。オ、オ、オ、オ、オ、オゥ。」
 それってすてきじゃーん?
 そうでもないか。とりあえず会社についてから、職場の人に報告した。ホウ・レン・ソウはビジネスパーソンの基本だからね。