やしお

ふつうの会社員の日記です。

松浦理英子『奇貨』

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27年前の併禄作、この切なさ鮮やかさが気絶するくらい好きなんだよ。表題作共に、語りがたい感覚を主人公が言葉に定着させてある認識へ到達する点は同じでも印象が全然違う。併禄作は反撃しない死者に向かう疑問だけど、表題作は生者の反撃で粉砕される。事件を一つ中心に据える前者と、複数の認識を細かくちりばめる後者。物理的な運動や身体的な痛みが描かれる前者と、肉体を欠いてひたすら認識を語る後者。短編の作りとして鮮やかなのは併禄作でもそれで作者が衰えたってのは違う。まとまらないことが小説に相応しい身振りだという実践が現在。


 しっかしこの「変態月」、29歳で書いてんのかと思うと本当に頭がおかしくなりそうになるわ。
 あと「奇貨」、もう素直に、ああーっそれ、その感覚、そうそうそうなんだよーっ、てなって軽く死にたくなるけどちょうおもしろい。

奇貨

奇貨