やしお

ふつうの会社員の日記です。

出川通『技術経営の考え方』

http://bookmeter.com/cmt/58389845

大企業で技術系マネジャー/リーダーとして大小のプロジェクトや事業を進めてきた実体験が色んなケースで書かれていて面白い。組織の違い(自社内での立上げ、子会社化、国内・海外ベンチャーや研究機関とのタッグ)や、フェーズの違い(研究/開発/事業化/産業化)で、上手くいったこと・いかなかったことを色々見せてくれる。編集上の割り切り方が不十分で「誰に何を伝えるか」の方針がブレてて読むのが少ししんどく、役所や大企業で見かけるあの「ポンチ絵」がたくさん出てきてほとんど理解の補助に供していなくて、社内資料に近い雰囲気の本。


 本書の内容自体とは関係ないけど、たくさん「ポンチ絵」が出てくるのを見て、改めて無意味だなと思った。作る手間がかかるわりに、読み手の理解の補助にほとんど役立たないので、作らない方がやはりマシだと思った。役所・学校・大企業であれを部下に作らせたくなるとか、自主的に作りたくなるっていうのは何なんだろうか。「頑張ってるよ感」、「すごいんだぞ感」をなんとなく出す以外の意味がない。
 「ポンチ絵」がまるで理解に役立たないのは、一枚の図の中に大量の情報がぶち込まれているので、理解するためには見る側が内容を分解・分析しないといけないからだ。それだともはや文章で読むのと大差がないし、なんなら文章の方が最初から情報を取り出す順番が構築されている分ポンチ絵よりわかりやすい。
 文章がリニアにしか情報を伝達しないのに対して、図はイメージで同時に伝えることができるという違いがあって、そのために論理の構築を伝えるなら文章の方が、ごく限定的なイメージ(特に要素の相対関係)を伝えるなら図の方が有利になる。図に情報を大量にぶち込んでその特性を殺すというのは、全くこの世界をハッピーにさせない。
 「図に頼らずに文章だけでとことんわかりやすくする」という制約を課して、文章の技術を上げるとようやく、「どうしても文章よりも図で見せた方が絶対にわかりやすいポイント」がはっきりする。その上でようやく補助的に図を使うことを許す、という順番じゃないとダメだなと思った。

技術経営の考え方 MOTと開発ベンチャーの現場から (光文社新書)

技術経営の考え方 MOTと開発ベンチャーの現場から (光文社新書)