やしお

ふつうの会社員の日記です。

増川宏一『伊予小松藩会所日記』

https://bookmeter.com/reviews/86021569

江戸時代を通じて取潰しも転封も免れきった小藩の記録。1万石で藩士70人+足軽等100人って規模感としては中小企業くらいだろうか。武士と農民の間の境目は想像よりも緩やかで、姻戚関係を結んだりしている。分類上は百姓でも現実にはみんな兼業農家で多彩な職業を持っていて、むしろ農業の方が副業のような人もいたり、商人や庄屋も一代限りで苗字帯刀を許されていたり、イメージよりずっと柔軟性のある世界だ。訴訟関係、係争処理の話も現代との価値観の違いが見えて面白い。

伊予小松藩会所日記 (集英社新書)

伊予小松藩会所日記 (集英社新書)

高山文彦『麻原彰晃の誕生』

https://bookmeter.com/reviews/86021584

オウム真理教以降の麻原彰晃というより、オウム以前の松本智津夫の話。まっとうな努力や勉強の仕方が分からない、でも「自分はすごい」とどうしても信じたい、そうした特性が、地道にやるのではなく虚飾やオカルトや宗教で一足飛びに「自分はすごい」を実現してしまおうとする。しかもそれが「成功」してしまったところに悲劇がある。目が見えるのに盲学校に入れられた子供時代に、親に捨てられた被害者意識と、周囲を圧倒するアドバンテージ(目が見える)を自動的に得て優越者の意識を持ってしまう、というストーリーでここでは語られている。

麻原彰晃の誕生 (文春新書)

麻原彰晃の誕生 (文春新書)

鈴木理生『江戸はこうして造られた』

https://bookmeter.com/reviews/86021623

人が密集して住むには上下水道の整備が必須になる。電力のない時代は水の流れを地理的な高低差、ポテンシャルエネルギーに頼るしかない、という観点から見つめると江戸は確かにそんな作りになっているという。あるいは江戸城を建造するには大量の資材を運び込む必要がある。そのためには港が必要になるし、建設が終われば防衛上その他の理由で閉ざされる。そうした種々の経緯や制約を多面的に追いながら、江戸が(家康以前の時代も含めて)どのように巨大な都市として形成されてきたかが詳細に描かれる本だった。


 面白かったけど、読んでいるとたびたび(それは恣意的な解釈なのでは?)(自分のストーリーに合わせ過ぎでは)と感じる箇所があって、それは「複数の解釈の可能性がある中で一つに断定している(ように見える)」箇所なのだけど、本書を読む以前に兵藤裕己『後醍醐天皇』を読んでいて、こっちは過去の通説をいかに複数の資料を突き合わせることでその解釈が現代の価値観や研究者の思い込みに沿ったものだったかを丹念に検証するような本だったから、余計にそう感じてしまう。