やしお

ふつうの会社員の日記です。

宮口幸治『ケーキの切れない非行少年たち』

https://bookmeter.com/reviews/86495152

IQは100程度ないと今の社会では生き辛いという言及があって、でもIQは真ん中が100なので、じゃあ世の中の半分の人が生き辛いってことになる。「えっ」と思うけど、実際そんな苦しみでできた世界なのかもしれない。軽度の知的障害は、普通に会話できるし、一般的なIQテストも「問題なし」、発達障害ほど医者にも世間にも理解が進んでいない。非行や犯罪を犯しても「反省が足りない」で片付けられてしまうが、実は反省以前に理解ができていない。「自己肯定感を高めよう」とかじゃなく、機能向上の訓練がまず必要だという。


 犯罪者に限らず、一般学級の下位3、4人がこのために授業についていけないのが実情だという。学校でこの種のトレーニングが導入されれば、少しでも救えるだろうという提言だった。
 それにしても著者の経歴が、京大工学部を出て建設コンサル会社で働いた後、神戸大学医学部に入って児童精神科医になって少年院で働く、ってすごい。

ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書)

ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書)

  • 作者:宮口 幸治
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/07/12
  • メディア: 新書

塙宣之『言い訳』

https://bookmeter.com/reviews/86106014

ああ、M-1の審査員ってここまで考えてやってるんだ、ってある種の感動を覚える。観客の感情に作用させることを目的とした営み、演劇や芸術を言語化するのは困難だとは思うけど、きっと本人が「ウケる/ウケないの差は何だろう」とかを日常的に真剣に考えずにいられないから、この水準で具体的に語ることができる。M-1のレギュレーションと芸人の相性があることは認めつつ、でもM-1の形式を批判したりあるいは過剰に適応するのは本末転倒だ、それを分かった上で賞レースと付き合うのがいい、という提言はとても健全なものだと思った。


 漫才でもM-1の4分間に合うものと、30分間やるのに適したスタイルとがある、と言われると、例えば小説でも掌編~長編で要求される特性や技術がまるで異なるのと同じことで当たり前なんだけど、改めて指摘されると(そっか)と思って面白い。
 同時代の漫才師たちの特徴(や欠点)を非常に明快に指摘していて、どちらかというとM-1周辺をメインにした話にはなっているけれど、もし時代的な展開も加えてもっと体系的に語られるようなものが出てきたらぜひ読んでみたいなという気持ちになった。

言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか (集英社新書)

言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか (集英社新書)

斎藤美奈子『モダンガール論』

https://bookmeter.com/reviews/86008146

めちゃくちゃ面白かった。日本で女性のキャリアパスが明治以降どう変化してきたかを大量の資料を参照しながら、実証的に語る。「キャリアパス」と言っても当事者にとって選択的なものじゃないし、望むと望まざるとに関わらず時代背景や経済状況に左右される。そうした構造も明確に描かれて、当事者の価値観や生活の推移も見せてくれる。「一億総中流」「専業主婦が当たり前」は全然普通ではなく一瞬だけ成立した構造だったんだとわかる。

モダンガール論 (文春文庫)

モダンガール論 (文春文庫)