やしお

ふつうの会社員の日記です。

ルートウィヒ・ウィトゲンシュタイン『青色本』

https://bookmeter.com/reviews/94997218

講義録ということもあり、体系的な著作ではなく、思考のプロセスを追体験するような本になっている。面白いのが、本文の中に訳者(哲学者の大森荘蔵)の補足が大量に埋め込まれていて、時々「私にはどうしてそうなるのかわからない」「それはおかしい」などのツッコミが入る。普通は訳者は透明になろうとするけれど、本書は大森の意見も含めて本書になっている。一回きりの体系が大切みたいなことが書かれていて、本書自体がその実践になっているし、いろんな示唆に満ちている。

大西康之『電機メーカーが消える日』

https://bookmeter.com/reviews/94997198

ここ10年ほどの日本の電機産業を解説する本。一般消費者からはみんな家電やPCメーカーに見えたとしても、もともとバックグラウンドとして電力と通信という2つのインフラを支えるために作られた企業群があって、電力系(三菱)と通信系(NEC富士通)(東芝・日立は両方)と、いずれにも属さない独立系(ソニーパナソニック・シャープ)の3つに大別される。上流(電力会社やNTT)が競争にさらされて厳しくなると、電機メーカーを抱える余裕がなくなって、従来のおんぶにだっこを維持できなくなってきている、という構造になっている。

石井正『東日本大震災 石巻災害医療の全記録』

https://bookmeter.com/reviews/94987097

石巻の災害医療で陣頭指揮を取った人の著書。たまたま東日本大震災の以前に病院が内陸部へ移転していたおかげで、津波に飲まれず災害拠点病院として機能できたという。運が良かったんだと思っていたら、著者は「そうじゃなくて病院がもし失くなっても、ないなりにやる、それが災害医療」と言い切って、具体的な想定プランも披露していた。確かにこの著者ならそれを実現しただろうと思わせる説得力があった。強力な意志をキープして動き続けたというのは本当に驚嘆するし、貴重な記録だった。マネジメント・リーダシップの面でも参考になる。