やしお

ふつうの会社員の日記です。

田中靖浩『会計の世界史』

https://bookmeter.com/reviews/95925171
複雑なシステムを理解するには、発展の過程を見るのが有効で、本書は会計という体系でそこを見せてくれる。「どういう時代背景と必要性で、何が生まれた/加えられたか」のひとつひとつの積み重ねを見ることで「なぜ今こういう姿になっているのか」を理解できる。外部に報告するための会計と、内部で把握するための会計があり、後者は組織・会社ごとに創造的に生み出さないといけないという話があった。元ミスミ社長の三枝匡が『ザ・会社改造』で、真の原価を把握する手法を開発していたのを思い出して、その営みの一環だったんだ、と繋がった。

会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカ――500年の物語

会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカ――500年の物語

  • 作者:田中 靖浩
  • 発売日: 2018/09/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

寺西千代子『プロトコールとは何か』

https://bookmeter.com/reviews/95618421
外務省で国際儀礼プロトコール)を担当していた人の本。単に「マナーを守って悪印象を与えない」だけでなく、国際機構では国の大小に関わらず一国一票なので、国公賓の接遇で外国要人に自国の好印象を与えることが、そうした場で自国有利に進める遠因になっていたり、国際会議を円滑に進める効果があったりする。基本ルールは存在していても、お互いが違和感や不快感を覚えなければ柔軟に運用される余地がかなりあって、「マナーに固執することが正義」な世界ではないこともよく分かる。


 傑出した経歴の持ち主や家系の出身者は、一種の「マナー・フリー」が特権として許される、という話が面白かった。キャロライン・ケネディ駐日大使(当時)が不適切と思われるカジュアルな服装を公的な場でしていたり、チャールズ皇太子がポケットに手を突っ込んだまま応対したりといった、通常のマナーの文脈では許されない振る舞いをする。ジョンソン首相の髪型がボサボサなのも同じような理由からかもしれない。「マナーをそもそも気にしなくても許される立場の人々」という考え方。
 そういえばさかなクンが、09年に天皇(現上皇)も出席した魚類学会でハコフグ帽を着帽したままで、20年に国会で水産資源管理について参考人招致された際も議院規則上は不可だった着帽が認められていた。これもこうした文脈のひとつなのかもしれない。


 ちなみに本書が文春新書で出たのは、元外交官・作家の佐藤優の推薦があったという。87年のベネチアサミットの時に、新人外交官だった佐藤優ベネチアのレストランでご馳走したことを未だに感謝されているという。

鷲田清一『ちぐはぐな身体』

https://bookmeter.com/reviews/95528680
常識やジェンダーバイアスなどの通念と、衣服や装飾がどう距離を取るのか、あるいはべったりなのかという視点でファッションを捉えていく。読んでいて退屈だったのは、ギリギリまで突き詰めて思考の拡張に至る営みというより、既存の思想や概念をそのまま援用して説明するまでで留まっているところ。例えばパックやシャワー、ストッキング、入れ墨などを密着の程度という軸で並列する箇所もあるが、そこから例えば九鬼周造『「いき」の構造』や玉村豊男『料理の四面体』のような突き詰め方もできそうだが、そこへは進まない。