https://bookmeter.com/reviews/96168634
村上春樹は、翻訳でも創作でも「文体は自分を限りなく捨ててもなお残るものを自分の文体と呼び得る」という認識と、「文章は人を次に進めなければならず、そのため文章にとって最も重要なのはリズムである」という認識を示している。本書にはレイモンド・カーヴァーとポール・オースターの同じ短編を村上と柴田がそれぞれ翻訳したものが掲載されている。読み比べると、そうした認識を示す村上の方が、英文の直訳に近いような文体の雰囲気になっているのが面白い。
森川智之『声優』
https://bookmeter.com/reviews/96168580
声優でもあるが、事務所社長として若い声優の環境を整えたり、養成所講師として声優を育成したりもしている。教育のスタイルとして、学習のきっかけは与えるが、そのきっかけを拾えるかどうかは本人の問題、という割り切り方をしている。シリコンバレーの数々の著名な経営者たちをコーチしてきたビル・キャンベルが、正直・謙虚さのない・利口ぶる人物にはコーチができない=コーチャブルではないとして支援を提供しなかったという話を思い出した。好奇心や素直さを教えることはできない、という経験則があるのだろう。
- 作者:森川 智之
- 発売日: 2018/04/21
- メディア: 新書
増田俊也『七帝柔道記』
https://bookmeter.com/reviews/95925269
「部活もの青春ストーリー」なのに、見たことのない地獄の光景で面白い。89年の北大柔道部が舞台の自伝的小説。コミュニティの新メンバーは、肉体と精神、自尊心をズタボロに破壊された上で、自分で「所属する意味」を考えてのめり込む、というプロセスは、一種のマインドコントロールで、詐欺セミナーや宗教団体の手法と基本変わらない(目的・効果で正当化されるかが決まる)。岡田尊司『マインド・コントロール』で、強固なコミュニティへの帰属意識を持つ人は、拷問や飢餓の苦しみに耐え抜けると指摘されるが、まさにその姿がここにある。
- 作者:増田 俊也
- 発売日: 2017/02/25
- メディア: 文庫