やしお

ふつうの会社員の日記です。

和田泰明『小池百合子 権力に憑かれた女』

https://bookmeter.com/reviews/98946483
炎上しそうな案件を見つける→問題を言い立てて炎上させる→正義・大義名分の側にポジション取りする、という一連の動きが小池都知事はめちゃくちゃ上手くて、そのサイクルを躊躇なく回せるので、ポピュリズムが成立して支持を受けるし、権力に近接できるし、長年に渡って「話題の人」であり続けられるんだろうか、と本書が紹介する色んな事例を見ながら思った。そのゲームの世界では、「課題を解決すること」自体には興味がない(意味がない)ので、「騒ぐだけ騒いで最後はやりっ放し」にならざるを得ない。


 本書はサブタイトルに「権力に憑かれた女」と、ちょっとセンセーショナル気味につけているけれど、中身では取材や公開情報に基づいて割と淡々と出来事を並べていて、人物に対する価値判断はそこまで下していないし、事例を綜合・一般化して人物を分析するようなこともされていない。
 一人の政治家の評伝としてはまだ全然不足していて、ただそれは著者の能力の問題ではなく、「現に権力者であり利害関係が発生している状態」では収集できる情報に制限があるので、小池百合子が完全に「過去の人」になったところで、改めてちゃんとまとめたものが出るといいなと思った。
 あとどれだけポピュリストだろうと、(国政もそうだけど)予算を成立させるためには議会の「人数」が必要になるので、そこは必至で泥臭くやらざるを得ない、というのも面白かった。

浦賀和宏『殺人都市川崎』

https://bookmeter.com/reviews/98946429
気付いたら人生の3分の1以上を川崎市で暮らしていて、土地へのご挨拶みたいな気持ちで本作を手に取った。この小説でいう「川崎」は、川崎市ではなく川崎駅以東ないし川崎区で、武蔵小杉が対局に位置付けられる、という比較的単純な枠組みで進む。荒唐無稽なお話は、アンリアルなコンセプトとリアルなディテールの調和が重要だとして、本作は両者ともに強度が低く、一種の下書きのような印象を持った。それが欠点と言いたいわけではなく、恐らくシリーズにしてそこを重ねていく予定だったのが、作者の死によって本作が遺作になってしまった。

富岡多恵子『漫才作者 秋田實』

https://bookmeter.com/reviews/99999763
現代の漫才が形成されてきた過程の中で、漫才師ではなく漫才作者として大きな役割を果たした秋田實を、詩人の富岡多恵子が描く本。(富岡は上方お笑い大賞の審査員を務めていて、審査員長が秋田實、という縁がきっかけだという。)東京帝大で左翼活動家だった秋田が、満州事変の起こった年にエンタツと出会い、戦時中も漫才作家として活動していく。戦後は散り散りになっていた漫才師たちをまとめている。それ以前の、粗雑・卑猥・低級というイメージだった漫才が更新されていく。鎌倉時代以降の漫才(萬歳)の歴史も概観していて面白かった。


 現在は、漫才作者が漫才師に台本を提供するというより、漫才師が自分の手でネタを作るのが一般的だと思うけど、秋田實が活躍していた時期からどうしてそう変わったんだろう、と思って調べたら、↓の記事が見つかった。
  「しゃべくり」を生み出す漫才作家 令和になり需要減っても「続けたい」キャリア45年作家の言葉(よろず~ニュース) - Yahoo!ニュース
 以前は10~15分のネタが主流で、売れっ子漫才師が自力で毎回作るのは難しく、そこで漫才作家の需要があったのが、80年代の漫才ブームから長尺ネタより10分以内のネタが要求されるようになり、現在はさらに短くなっているのが要因だという。放送作家などが漫才師にネタを提供したり書くことはあっても、完全に専業で漫才作者としてやっている人はほぼいなくなっている。