やしお

ふつうの会社員の日記です。

すが秀実『1968年』

https://bookmeter.com/reviews/109889755
中核派を始めとする新左翼は、ベースの価値観がナショナリズムナルシシズムで成り立ってた、という話はすごく腑に落ちるというか、現在の自称保守派と似てる。それを真正面から面前で批判したのが、1970年7月7日の集会での華青闘(華僑で構成された新左翼団体)で、その批判に衝撃を受けて新左翼は変容していったし、その後の偽史・オカルトブームやサブカルチャー、マイノリティ運動にも繋がっているという。中野重治の小説「村の家」を通して天皇制と共産党吉本隆明の「転向論」位置付けなどを浮かび上がらせていくパートが楽しかった。

山田登世子『シャネル』

https://bookmeter.com/reviews/109889609
本書の解説では「ココ・シャネルの様々な特質は『嫌悪』の精神に集約される、本書はそれを証明している点で傑作」と書かれてはいるけど、本文を読むとむしろ、経済構造の転換期で、世の中のライフスタイルや価値観が変化するタイミングにちょうどハマった人という印象だった。「変な人」はどの時代にもいるが、転換期には「新しい価値観を先取りして体現するような人物」が時代に祭り上げられていく構造がある。「個人の特性」と「時代の要請」の両方が揃って初めて「偉人」が出現する(幕末維新期に偉人が多いのとか)。


 そうした人物の評伝はやっぱりスケールも大きいし面白かった。
 ウーマン・リブ、女性解放といった側面と、商業的に成功するという側面が、高度に融合している。

中村恵二、榎木由紀子『最新ホテル業界の動向とカラクリがよ~くわかる本[第4版]』

https://bookmeter.com/reviews/109889565
コロナで旅行の機会が減ってから、なんとなくYouTubeで旅行やホテル滞在の動画を見るようになって、もうちょっと体系的にホテルの基礎知識を得たいという気持ちになってきて、あれこれ探して本書に行き着いた。業界に就職したい学生向けの参考書という感じで、体系的かはともかく網羅性はあった。ブランド名と実運営の主体が違う(同じマリオットでも中身は近鉄JR東海森トラストだったり)とか、普通に泊まってるだけだと全然分からないよね。


 最近のラグジュアリーホテルだと、高層ビルの下層が商業施設、中層がオフィス、上層がホテル、というスタイルが多いけど、容積率の緩和とかの話とも絡んで量産されてる、という。
 しばらく前に横浜のインターコンチネンタルホテル(カマボコ型のあれ)に泊まって、確かに90年代前半の建設なので古さはあっても「大きなビルのまるごとがホテル」なのはやっぱいいなと思った。ロビーも広々してて「公共の場」感があるし。
 少し前に堤清二やセゾン関係の本を読んでいて、このみなとみらいのインターコンチネンタルホテルができた経緯も知ると、一種のひいき目で見ているところはあるのかもしれない。もはやセゾンとは無関係でも、下にセゾン美術館のミュージアムショップがあるのは、何か「夢の跡」感があった。
 上層階だけホテルスタイル、経済的な余裕のなさがむき出しなのが、「いいホテルに泊まったな」感を削いでくる感覚がちょっとある。歌舞伎座をビル化してオフィステナントの賃料収入で成立させるのも似た話かもしれない。経済合理性の追求は、余裕やゆとりとは方向性が違ってくる。
 といった素人がすぐに思うような話は、当事者は当然わかっていて、ホテルオークラ東京は建替えでビルの途中がオフィスフロアになったものの、ロビーを限りなくもとに近い雰囲気を維持していた。