やしお

ふつうの会社員の日記です。

ガブリエル・ガルシア=マルケス『族長の秋』

http://book.akahoshitakuya.com/cmt/29527506

2千人の子供を船に乗せて海上で爆破しようと、どれほど非現実的なことが起ころうと、ひたすら途方もなくリアルなのは、認識の明晰さによるものではなくむしろその否定にある。非現実的な事態を語ることと、改行も会話文の区切りもなく三人称と一人称単複が混在し時間軸も交錯するスタイルは不可分。客観的な事実と主観的な認識がシームレスに支え合い、時間軸を越えて結果が先に示され宙づりも許されず、ここではもはや隠蔽が成立しない。一切がクリアになるほかない世界で全てがリアルになる。これは凡庸な明晰さを放棄した、知的な愚鈍さなんだ。


 こんなことが可能なのか!!と衝撃を受けながら読んだ。
 一瞬一瞬が極めて鮮やかで、その読めばすぐに通り過ぎちゃう一つ一つを書くには、真剣に1日とか1週間とか考えないと出てこないはずだ、でももしこの小説が1年で書かれたものとかだったらもうほんと、絶望しかないわと思ってたら8年かかって書かれたそうで、よかった、この著者も人間だった、とよくわからない安心をした。


族長の秋 (ラテンアメリカの文学) (集英社文庫)

族長の秋 (ラテンアメリカの文学) (集英社文庫)