職場の引越し後、新人の椅子が消失した。
みんなで探したけど見つからなかった。ぼくは彼女が
「あたし空気椅子でいいです。定年まで空気椅子でいいです」
って新人らしいこというかなって期待したけどそんな発言もないまま別の椅子が用意されて普通にすわってた。
空気椅子ってしんどいよ。
もしはじめてたら、たぶん誰かに仕事を振られても
「すいませんあたし脚ぷるぷるしてるんで話しかけないでくれますか」
って全ての仕事を断り始めるにきまってる。空気椅子をなめるな!
それでみんなが怒って、彼女の肩をいきなり後ろに引いて転ばしたり、ももの裏側をがんがん蹴り上げたりすると思う。それでだんだん鍛えられて、ものすごい脚になる。
クイーン・オブ・キックポップの通り名でストリートファイターとして名を馳せるその裏で彼女は、かつての同僚を一人ずつ蹴り殺してゆく殺人マシーンと化していた……
というキャリア・プランを考えてみたけど、普通に椅子にすわってるからよかった。
世の中ってうまくできてる。この世界に悲劇のモンスターを生み出さずにすんでよかったと本当におもうよね、ぼくは。