やしお

ふつうの会社員の日記です。

やる気をギガドレインみたいに吸い取るタイプの人

 会社で最近、課をまたいだプロジェクトグループに参加した。メンバーの他に元部長がアドバイザーとして参加していた。元部長はアドバイザーの枠を越えてほとんど活動を主導していた。リーダーを含めたメンバーの意見はアドバイザーによって修正され、アドバイザーの「こうすべき」という方向に必ず帰着する。(その結論自体は合理的でとても納得性の高いものになっている。)
 アドバイザーの考えから外れた意見をメンバーが出した場合、「なぜそれが間違っているか」を全員の前でダメ出しされる。メンバーは「自分の考え」ではなく「アドバイザーが思う『こうすべき』に合致する考え」を言うようになっていく。


 僕は最初、メンバーに割り当ててもらったことは嬉しかったし、きちんと成果を出して意義のある活動にしたいと思っていた。しかし参加して一回目の会合でもう、「元部長の考えを先回りして当てるゲーム」を自分がしていることに気付いた。僕や他のメンバーが存在する意味がなくて、元部長が一人でやっているのと変わりがない。活動への意欲が一気に減退してしまった。
 ずっと黙っていると「積極性がない」「考えてない」「貢献していない」と見なされて責められる。しかし無闇に意見を言って邪魔をすればそれも攻撃対象になる。「たぶんこういう方向に持っていきたいのだろう」と正確に推定して、議論を進めている風なタイミングで発言して、しかし最後は元部長が示した結論に乗っかる。そんな、生産性の高いすてきなゲームです。


 元部長と直接一緒に何か仕事をするのは初めてだった。ものすごく優秀な人だと思っていたし、一方でみんなから嫌われていたのも知っていたけど、なるほどこういうことなんだと思った。
 議論するコスト > 得られるリターン
がはっきり予見できている状況だと、自動的にみんなあのゲームに突入してしまう。その方が全体にとってトータルで得だと分かっているから、そうせざるを得なくなる。
 誰だって大人で自己決定権を持っているのだから、それが否定されるのは耐え難い。上手くゲームをこなせる人は「そういうゲームをプレイしてるだけ」と自嘲気味に言うし、上手くできずに怒られる人は「あの人ムカつく」と文句を言うことになる。


 このタイプの人は初めてじゃない。昔、自分の上司(課長)で全く同じタイプの人がいた。ただその人はこの元部長よりもずっと激しく、より直接的に相手を否定して押さえつける人だったから、その人のことを思い出すと元部長はまだ全然大丈夫という気もする。
 二人ともよく似ている。本当にロジックを構築する力は優れていたし、物事のどこが肝心なポイントか押さえるのは的確だ。判断が紛れもなく優れている。圧倒的に優秀なのは間違いない。そして「自分が組織をより良くする」「自分がこいつらを育ててやる」という気持ちも強いのも似ている。


 これは一種の「キャラの呪い」なんじゃないかと思っている。
 ロジックを正確に・素早く構築する能力の高い人にとって、周りと話していて「どうしてそんなことが分からないんだ」「この前提からその結論にはならないだろ」「判断材料のここが足りないんだから集めろよ」という気持ちになるのは仕方のない面がある。そしてそう指摘すると相手は「そうですね。そうします」となる。その環境が何年も、何十年も続けば、「自分はここにいる誰よりも分かっている」「自分がこいつらを指導してやる」という感覚が固定されても不思議じゃない。
 そうやって一度キャラが設定されると、自分自身でもその一貫性を裏切れなくなってくる。もうあらゆる場面で「自分の方が正しい」をやり続けることになる。本人のやり方に任せればいいじゃん、と思われるような細かいところ、例えばパワーポイントの資料の作り方とか、電話の受け答えの仕方とかにまで口を出し始めてしまう。
 時々抜けてて他の人に間違いや忘れを指摘されて、自分にそこまで自信を持てないでいる方が、かえって恵まれているのかもしれない。


 そういえば二人とも雑談が下手というのも似ている。雑談って、特に結論を求めることを目的とせずに、興味・関心のポイントをお互いに譲り合いながら、「相手がどう思っているのか知りたい」を原動力にして連想ゲームみたいに話題を変えながら進めていく営みなのだと思う。雑談はたぶん「無意味であること」に意味がある営みで、それを通じてお互いを了解可能な存在にしていって「この人とは話をしても大丈夫、許してくれる」という安心感を作っていく。でも「合理的な結論を見いだすこと」や「自分の方が相手より認識が正しいと示すこと」に目的を見出す習慣が強いと、そもそも「雑談」が成立しようがない。多少「自分はそうじゃないと思うな」と思っても、「でもあなたがそう考えるというのは理解できる」でスルーしないと雑談は成り立たない。それがたぶん上手くできないのだと思う。


 元日に書く話じゃない気もするけど、まあいいや。割と最近そんなことがあったので、忘れないように記録しておこうと思って。