やしお

ふつうの会社員の日記です。

会社命令の自己啓発というふしぎな話

 会社で英語の研修の案内が出てきて、

  • 就業時間後に会社で外部講師を呼んで実施
  • 自己啓発なので時間外手当はなし
  • 講座の費用は会社負担

というものだった。
 自分で英会話教室に通うことを考えればかなりお得とも言えるし、会社にいるのに残業代が出ないのは損とも言える。これを「仕事外」と見做すか「仕事内」と見做すかによって見え方が違ってくる。


 事業部長から部長に「今後はグローバル対応がますます不可避なので各部長は必要な人を明日までにピックアップして申し込むように」というお達しが出て、部長の方から「各課から今日中に受講者を出すように」とのお達しが出て、課長からグループリーダー(自分とか)に「午前中に受講者の選定をしてね」という依頼が来たのだった。大企業しぐさって感じする。
 でも「自己啓発だから給料は出ない」というのは、社員のプライベートな時間であって、その使い方を会社側が指示するというのは筋論としては許されないだろうとも思ったので、素直にその旨を書いて「希望者がいれば課長までお知らせしてね」というメールを課内にとりあえず流したのだった。
 結果的には課長が個別に受けてほしい人に聞いて(お願いして)一人受講してもらえることになった。(誰もいなければ自分が受けてもいいかなと思ってたけど、研修の水準とミスマッチで自分は受講対象外だった。)
 本当はやりたくても、自分で手を上げると「意識高い系」と思われて恥ずかしいけど、上司に言われて仕方なく受けたって形にした方が実は受けやすい、みたいな村意識に基づく利点(?)はあったりするのかもしれない。(受講してくれた人がそうだ、という意味ではなくて。)


 この「体裁は自己啓発だけど事実上は会社命令」の矛盾って、新卒一括採用という仕組みともリンクして生じているのかもしれない、とちょっと思った。
 語学に限らず、CADやプログラミング、資格試験でも、特に組織特有ではない一般的な技術に関しては「自分でレベルアップしろ」という考えもあり得る。ただその考え方は、そういう技術を習得することで報酬面で優遇されるという話とセットになっていないとインセンティブが働かないから成立しない。労働市場流動性があり中途採用が普通で、さらに年功序列制でない給与制度であれば、一般技術を高いレベルで身に付けるかどうかは本人が好きにすればいい、会社側が教育の機会は設けることもあるがそれを利用するかどうかは本人の自由、ただしレベルが低ければそのような待遇にとどめるし解雇もあり得る、という形になってくる。
 一方で新卒一括採用で年功序列型の賃金であれば、採用した人間は放っておいても賃金は上昇していくし解雇するわけにもいかないので、それなりに会社がレベルアップさせていく必要性が生じる。必要な技能は「身に付けてくれた人を取ってこればいい」ではなく「こいつに身に付けさせなければならない」となるから、自己啓発という形を取りながら、実質的には会社命令で勉強させる、みたいな感じになる。
 もとは事業部長の思い付き(?)で指示が出されてるわけだけど、ただその思い付きは「今社内にいる人間を強制的にでもレベルアップさせなければ」という価値判断から来ていて、そうした価値判断が出てくるのは新卒一括採用・年功序列型賃金・終身雇用制度という三位一体がベースにあるからなんだろう。


 そんなことをぼんやり思ったから忘れずにメモしておこう。こういう文化というか細かい現象や実例は、そうじゃない状態になってしまうともう忘れてしまうからどこかに記録を残した方がいいかと思って。
 最近、会社が年功序列型の賃金をやめて新卒採用を抑制して中途採用を増やしているから、何年か経ったらこういう現象は変わるのかもしれないし、そうじゃないのかもしれないし。記録に残しておけば参照点として機能するかなと思って。